米朝交渉 非対称な非核化と安全の保証の取引
Japan In-depth / 2018年6月22日 23時39分
神保謙(慶應義塾大学教授・キャノングローバル戦略研究所主席研究員)
【まとめ】
・共同文書で非核化は「完全な非核化」という表現にとどまった。
・中国が主張してきた、北朝鮮核・ミサイル実験と米朝演習を同時に中止する「二重凍結路線」が事実上実現。
・ 北朝鮮が核兵器を手放す意図ないなら「最大限の圧力」への回帰が肝要。
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■ 「破滅的失敗」と「破滅的成功」の間
「米朝首脳会談は破滅的な失敗(catastrophic failure)か破滅的な成功(catastrophic success)のいずれかとなる」――5月初旬にワシントンDCを訪問した際に、主要なシンクタンクではこのような観測が飛び交っていた。
「破滅的な失敗」とは米朝会談が決裂し、米朝間で軍事的な対立と緊張関係がより深刻化することであり、「破滅的な成功」とは米国が合意を重視するあまり、北朝鮮の非核化が達成されないまま、北朝鮮に決定的な譲歩をすることを意味した。米国の多くの識者が内心予期していたのは、米朝が「破滅的な成功」を収め、両首脳が握手をする姿だったのではないか。
6月12日にシンガポールで開催された米朝首脳会談は、歴史的な邂逅であったことは間違いない。つい半年前まで米朝関係が軍事的緊張を含む対立関係にあったことを考えれば、首脳会談実現しそこで展開された数々の場面は、まさに「SF映画の一場面」(金正恩委員長がトランプ大統領との冒頭の握手の後に述べたとされる言葉)のようだった。
▲写真 首脳会談に臨む金正恩北朝鮮委員長とトランプ米大統領 2018年6月12日 出典:facebook : Donald J. Trump
筆者自身は米朝首脳会談の期間中シンガポールに滞在し、現地で展開した首脳会談の実態を感じ取り、交渉に携わった米政府関係者へのヒアリング等を通じて、この会談の意味を読み解くことを試みていた。
トランプ米大統領と米政府関係者は、シンガポールで「特別区域」に指定され、何重もの検問所が設置されたシャングリラホテルのバレーウイングに宿泊し、ホテル敷地内でも同棟への出入りには厳重な警備が敷かれていた。一方で正面玄関のあるタワーウイングの中二階には日本政府関係者が詰め部屋を設置し、早朝から深夜まで出入り慌ただしく米朝会談の情報収集に余念がなかった。
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