米朝交渉 非対称な非核化と安全の保証の取引
Japan In-depth / 2018年6月22日 23時39分
12日午前にセントーサ島のカペラホテルに到着した米トランプ大統領と金正恩委員長は、歴史的な邂逅を果たし、まずは首脳間同士と通訳のみによる「テタテ会合」(編集部注:サシの会合)、主要な高官を交えた拡大会合、交渉当事者などを含めた昼食会へと臨んだ。
そして午後1時40分に両国の国旗が並ぶ部屋に再び登場した両首脳は、テーブルに用意された米朝共同声明に互いに署名し、トランプ大統領は両首脳の署名の入った共同文書を自信ありげに掲げた。その文書の内容はテレビ映像から判別することができ、直後から各国報道陣からは「まさかこんなに短い文書なのか」「どこかに付帯文章があるはずだ」とどよめきが起こった。
果たして米朝共同声明は、わずか1ページ半に満たない拍子抜けするほど淡泊なものだった。合意の核心となる北朝鮮の非核化と米国の安全の保証の関係について、「トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証(security guarantees)を提供する約束をし、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化について断固として揺るがない決意を再確認した」という基本的構図を確認し、米朝両国は「相互信頼関係の構築によって朝鮮半島の非核化を進めることができる」と期待を述べるにとどまっている。
そして個別項目として、
①新しい米朝関係の樹立
②永続的で安定した平和体制の構築
③「板門店宣言」を再確認し、北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことを約束
④朝鮮戦争時の捕虜・行方不明兵士の遺骨回収・返還をする
ことが確認された。
米朝での合意事項はこの共同声明で述べられた内容以外にも存在していた。トランプ大統領は署名式後の記者会見において、北朝鮮がミサイルエンジンの試験場を破壊することを共同声明署名後に約束したことを明らかにした。また大きな波紋を広げたのは、トランプ大統領が記者との質疑応答の中で、米国は北朝鮮との交渉中は米韓合同軍事演習を中止すると述べたことである。そしてトランプ大統領はそもそも米韓演習は「大変費用がかかる」ものであり、グアムから飛来する爆撃機も「長い時間がかかり高額だ」と述べ、コスト面から前向きではなかったという思いを率直に吐露した。
▲写真 米軍と韓国軍 出典:Edward N. Johnson, U.S. Army Public Affairs Officer
以上の米朝共同声明と米朝会談での合意内容は、「北朝鮮の非核化」と「米国による安全の保証」を大枠で相互に確認したものである。歴史的文脈でとらえれば、米朝両国の首脳による合意と署名がなされた、という点において、過去のいずれの合意よりも重みを持ち、わずか数カ月前まで軍事的緊張状態にあった相互の関係を打開する努力を確認したことの意義は重視すべきである。
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