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挑み続ける医師、福島からの変革

Japan In-depth / 2018年8月3日 10時43分

本来、制度を全面的に見直すべきだが、彼らは「我々が責任をもって医師を地方に派遣する」という。これは大学医局の復活に他ならず、派遣する連中が大きな権力を得ることになる。


 


こんな馬鹿げたことを誰も批判しない。物言えば唇寒し。長いものに巻かれているうちに、まともな判断力を失ってしまう。これこそ、我が国の医療界の問題だ。この状態に問題意識を抱く若手が育ってきた。その代表が前述の尾崎医師だ。30代前半の医師が公然と医学界の重鎮を批判するなど、かつては考えられなかった。


 


なぜ、彼が成長したのか。それは彼が福島で働いたからだろう。社会の問題は常に辺境におきる。尾崎医師は、次々と起こる問題に対応し、成長していった。彼の経歴、福島での活動をご紹介しよう。


 


 尾崎医師は福岡県出身。2010年に東大医学部を卒業したあと、千葉県内の病院を経て、竹田綜合病院(福島県会津若松市)に就職した。その後、2014年10月に南相馬市立総合病院に移籍する。彼が外科医として研鑽を重ねる傍ら、東日本大震災以降、南相馬市で起こっている事象を医学論文としてまとめた。


 


例えば、南相馬では原発事故後、乳がん患者が手遅れになってから病院を受診するケースが増えた。この事象を、彼は「原発事故で子ども世帯が避難した結果、独居高齢者が増えたため」と分析した。


 


人は誰しもが、都合の悪い事実を認識したくない。心理学の専門語で正常性バイアスといい、沈没船から逃げ遅れたり、洪水でも逃げない人など、その代表例だ。尾崎医師が対応した多くの患者は、乳房に腫瘤を自覚しても「まさか癌ではない」と考えて、病院を受診しなかったのだろう。家族がいなければ、そのままになり、癌は進行してしまう。尾崎医師は、この正常性バイアスが南相馬の住民にも働くことを示した。高齢化社会では独居老人が増える。この論文は英国の医学誌に掲載され、世界の注目を集めた。


 


 一人前の臨床医になるには、診療と研究が欠かせない。これは医師のトレーニングの車の両輪で、古今東西変わらぬ真理だ。両立は難しい。診療はある程度慣れればルーチンワークになるが、研究は最新の情報にアップデートし、データを集め、自分の頭で考えねばならない。病院の業務とも直接関係はない。多くの医師は30代になると、何もしなくなる。


 


尾崎医師は違った。14年10月に南相馬市立総合病院に移籍以降、2018年7月25日現在、51本の英文論文を発表した。17本は筆頭著者だ。これは並みの大学教授より多い。彼が成長したのは、2016年末の広野町の高野病院の高野英男院長の突然死だ。


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