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挑み続ける医師、福島からの変革

Japan In-depth / 2018年8月3日 10時43分

 


 乳がんの診療に従事する医師も少ない。常磐病院以外に常勤で乳腺に特化した医師が在籍するのは、いわき市立総合磐城共立病院、福島労災病院、呉羽総合病院だけだ。いずれも常勤医は一人だけで、いわき市内の乳腺患者に対応出来ない。


 


 この地域が抱える問題は深刻だ。乳がんの治療を行うには、外科医だけでなく、放射線診断医、放射線治療医、病理医などの存在が必須だ。ところが、このような専門家も不足している。


 


例えば、この地域に放射線治療の常勤医はいない。大学病院から派遣される非常勤医に依存しているが、治療できる患者には限界がある。この問題について、尾崎医師は「時間をかけて養成するしかない」という。


 


熱意ある医師のもとには若手も集まる。南相馬市立総合病院の初期研修医である村田雄基医師は「放射線治療は、今後、ニーズも高まり、関心がある」という。将来は尾崎医師とともに働くことも考えているようだ。


 


放射線診断専門医、病理医については、別の解決法がある。直接患者に接するわけではないので、遠隔診断が可能だ。尾崎医師のパートナーは広島市の放射線診断専門医である北村直幸医師である。北村医師は臨床医として働く傍ら、エムネスという遠隔画像診断をサポートする会社を経営している。


 


エムネスの特徴は画像データをクラウドに集約していることだ。彼らが利用するのがグーグルクラウドプラットフォームだ。


エムネスのシステムを導入した場合、契約する医療機関で撮影されたCTなどの画像はクラウドにアップされ、エムネスと契約する放射線診断専門医が読影する。最近は病理の遠隔診断にも力を入れるようになった。


 


結果は、放射線診断であれ、病理診断であれ、画像に読影レポートをつけて、クラウドを介して、医療機関に戻される。エムネスを利用する医師は「クラウドを介しても、データ送信の遅延はありません」という。


 


エムネスの売りは料金が安いことだ。画像情報のやりとりには、インターネット回線を使うので、医療機関は初期費用を負担する必要がない。病院が独自回線を引き、独自にサーバを用意する従来型の電子カルテとは違う。


 


北村医師は遠隔診断では世界的に有名だ。7月24~26日にかけて、米国サンフランシスコで開催された「グーグルネクスト2018」に招聘され、グーグルクラウドのアリエ・マイヤー氏と50分にわたり対談した(参考)。参加した日本の電子カルテメーカーの社員は「北村先生の仕組みは現時点で世界最高レベルです」という。だからこそ、グーグルも目をつけたのだろう。



写真2)「グーグルネクスト2018」に参加する尾崎医師


後ろは共同研究者の嶋田裕記医師(南相馬市立総合病院脳外科)


©上昌広


 


実は尾崎医師は「グーグルネクスト2018」に参加した。エムネスと遠隔診断の共同研究を進めているからだ。常磐病院でも「自らが関与する部分から、エムネスのシステムを導入する予定」という。さらに、北村医師を介して知りあった、グーグルのチームとも共同研究を進める方向で調整を始めた。


 


地域力は人材力だ。東日本大震災から7年が経過し、福島では一流の人材が育ちつつある。その一人が尾崎医師だ。現場で直面した問題を、多くの方々に支えられながら、一つずつ解決している。このような活動を通じ、国内外に広いネットワークも構築されつつある。


 


革命は周辺からおこる。福島から医療が変わりつつある。


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