岩手に出でよ!21世紀の原敬
Japan In-depth / 2019年3月30日 18時51分
原の政策は、外交は対英米協調主義、内政は教育制度や交通機関の整備など積極主義をとった。特に教育面では高等教育の拡張に力をいれ、官立旧制高等学校10校、官立高等工業学校6校の新設、帝国大学4学部の設置、医科大学5校の昇格を推進した。明治維新で遅れをとった地域に教育機関を整備するなど盛岡人らしいが、原は強かな側面も持ち合わせていた。
原の積極政策で利益を得たのは政商や財閥が多く、この時期には疑獄事件が多発している。彼の政策は当時、「我田引鉄」と批判され、現代に繋がる利益誘導の構造を作り上げたという見方も可能だ。
ただ、その政治力は卓越しており、1921年(大正10年)に東京駅で暗殺された際には、長州閥のボスである山県有朋までが「原という男は実に偉い男であった。ああいう人間をむざむざ殺されては日本はたまったものではない」と嘆いた。
原の存在は東北人に対して抱く我々のイメージとは異なる。権力とのバランスの取り方が上手く万事抜かりない。イデオロギーにとらわれず、融通無碍に対応する。これは原が多くの情報を持っていたからだろう。東京に出てきた原は新聞社に勤めて糊口をしのぐ。おそらく、このときに情報の価値を知り、その扱い方を知ったのだろう。
▲写真 東條英教 出典:Public Domain(Wikimedia Commons)
東條英機の父である東條英教は対照的だ。南部家当主の子弟の教育係で、盛岡藩のエリートだ。頭脳明晰で、陸軍大学校1期を首席で卒業した。同期には『坂の上の雲』の主人公である秋山好古がいる。
英教は学業は優秀だったが、実戦での指揮はイマイチだったようだ。日露戦争で判断ミスを繰り返す。1904年(明治37年)7月の柝木城の戦いでは、歩兵第3旅団長だった英教は師団長から夜襲を命じられたが、自ら状況を判断し夜襲を行わなかった。この結果、ロシア軍は無傷で撤退し、別の師団が敵軍に包囲された。英教の判断ミスは偵察不足と指摘される。
英教は、陸軍を仕切っていた長州閥からは評価されず、1907年(明治40年)11月、中将に名誉進級後に予備役となる。英教が力を注いだのは、息子である英機の教育だ。常日頃から軍人の心構えを説いたという。英機は父の期待に応え、3回目の挑戦で陸軍大学校に合格する。その後、日本を敗戦へ導いたことは周知の通りだ。
英教・英機親子に共通するのは、優秀で芯は強いが、一本気で柔軟性がないことだ。二人とも人生の大部分を軍官僚として、閉鎖的な社会で過ごした。閉鎖的な環境で育つエリートの思考は観念論的になりやすい。時に大失敗する。
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