医療の可能性と若手医師育成
Japan In-depth / 2019年6月28日 23時0分
「南相馬と広島・上海で働かないか?」
坪倉正治医師は嶋田裕記医師に提案した。坪倉医師は福島県浜通りで診療する傍ら、福島県立医科大学の特任教授として、大学院生を指導している。坪倉医師の専門は血液内科。福島では震災直後から被曝対策に従事し、福島県立医大では公衆衛生学も教えている。嶋田医師は博士課程の大学院生の一人だ。
嶋田医師は2012年に東京大学医学部を卒業後、千葉県の名戸ヶ谷病院で初期研修を終え、2014年5月に南相馬市立総合病院に就職した。専門は脳外科だ。前述したように、昨年4月福島県立医大の博士課程に進んだ。南相馬市立総合病院で診療の傍ら、臨床研究を行う。
▲写真 南相馬市立総合病院にて。左から坪倉正治医師、嶋田裕記医師 出典:著者
彼が研究テーマに選んだのは、遠隔画像診断だ。かつて脳卒中は「東北地方の風土病」と言われた。以前ほどではないが、現在も脳卒中の頻度は高い。
この領域の診断・治療は近年、急速に進歩したが、東北地方ではその成果が充分に患者に還元されているとは言いがたい。脳外科および放射線科の専門医が少ないからだ。
南相馬市内の民間病院に勤務した経験がある山本佳奈医師は「夜間、当直中に意識障害の患者にCTを撮っても、専門医に読影してもらうことは出来ません。転院を受けてくれる病院はほとんどなく、そのまま保存的に診るしかありません。(脳卒中の後遺症を大幅に減らす最新の治療である)血栓溶解療法などやったことはありません」という。これがへき地医療の実際だ。
遠隔画像診断は、この状況を変える可能性がある。萌芽的な営みは既に始まっている。山本医師は「脳卒中の患者でCT画像をスマホで写真にとって、嶋田先生に送ったことがありました。すぐに読影してくれて、そのときは南相馬市立総合病院に転院させてくれました」という。
これは山本医師と嶋田医師が旧知でスマホで連絡を取り合える仲だったからできたことだ。どこでも、誰でも利用できるようにシステム化するにはどうすればいいか。
この問題に取り組んでいるのが、広島市内で霞クリニックおよび株式会社エムネスを経営する北村直幸医師だ。CTやMRIの遠隔診断システムを開発している。
▲写真 画像診断の様子 出典:エムネス / MNES Inc.Medical Network Systems Facebook
北村医師のことは、多くのメディアで取り上げられており、ご存じの方も多いだろう。総合情報誌『選択』は2018年9月号で「グーグルが支配を狙う日本の医療」という記事を掲載し、その中でエムネスのことを紹介している。北村医師の活動の世界的な意義が理解できる。ご興味のある方はお読み頂きたい。
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