医療の可能性と若手医師育成
Japan In-depth / 2019年6月28日 23時0分
私は尾崎医師や山本医師の進路相談に乗ってきたが、彼らが南相馬市立総合病院を辞職するにあたり、公務員の兼業禁止規定は大きく影響した。幅広い分野で経験を積みたい彼らにとって、この規制が大きな障害となった。あまり議論されることはないが、若手医師にとって公務員になることは、さまざまな弊害がある。公的病院は地域医療で中核的役割を担うことが多い。私は、この兼業規制が地域の公的中核病院の経営の足を引っ張っていると考えている。
若手医師の中には「海外との兼業」を始めた者もいる。それは森田知宏医師だ。2012年に東大医学部を卒業しており、嶋田医師の同期だ。千葉県の亀田総合病院での初期研修を終え、相馬中央病院(福島県相馬市)に内科医として就職した。現在は日曜の当直から水曜までを相馬中央病院で勤務し、木曜と金曜は東京のベンチャー企業miupに取締役として勤務する。
miupの主たる業務はバングラデシュでの医療ビジネス、特に臨床検査ビジネスの立ち上げだ。森田医師は、毎月一週間程度、バングラデシュで勤務する。仕事柄、地元の医師と交流する。会社の業務の一環として臨床研究を進めるとともに、経済的な側面も含め、バングラデシュの若手医師を支援する。昨年はアビデュラ・ラーマン医師が福島医大の病理学教室に留学した。
▲写真 バングラディシュでの医療の様子 出典:PIXNIO
坪倉、尾崎、山本、森田医師、いずれもが福島をベースに国内外で「兼業」している。これは私がグランドデザインを描いたわけではない。東日本大震災直後から福島で診療を続ける中で、自然に確立した働き方だ。彼らは「福島で働き続けるためにはどうすればいいか」を考えて、「複数ケ所勤務」の方法を確立していった。
厚労官僚や有識者が頭の中で想像したことを、国家や業界の力を用いて、現場に押しつける新専門医制度とは全く違う。どちらが実情に即しているかは議論の余地がない。
福島の地域医療に従事するのは、やりがいがあるが、症例数も少なく、十分な経験を積めない。幸い福島と東京は近い。我々の研究所が存在する東京の高輪から南相馬市立総合病院に行くのに要するのは約4時間だ。毎日の通勤は無理でも、二ヶ所勤務は十分な可能な距離だ。
このような勤務を続けるうちに、彼らは「東京から南相馬に行くのも、上海に行くのも変わらない」と言い出した。
これまで私たちのグループは上海の復旦大学と共同研究を続けてきた。2017年には森田・山本医師が復旦大学に約一ヶ月間留学した。
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