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人類と感染症7 スペイン風邪、西部戦線異状あり

Japan In-depth / 2020年4月20日 16時58分

人類と感染症7 スペイン風邪、西部戦線異状あり


出町譲(経済ジャーナリスト・作家)


【まとめ】


・スペイン風邪は西部戦線に送り込まれた米兵がきっかけだった。


・スペイン風邪の大流行は第一次世界大戦の終戦を早めた。


・感染病は人間社会が対立している時に流行する歴史がある。


 


私の脳裏に、有名な映画のワンシーンがこびりついている。そこは男子校とみられるドイツの高校だ。


「諸君らはドイツの鉄の男です」


「敵を撃滅せんとする偉大な英雄たちとなるのです」


「祖国に捧げる死は甘美である」。


「大儀名分の下では個人的な野心を捨てるべきだ」。


教師が生徒を前に、力説した。戦争を鼓舞する演説。そのさ中、映画は、生徒の一人一人の顔を映し出す。悩ましい表情をした若者たちもいる。教師は、最後に志願兵になるよう促すと、若者たちが次々に呼応した。「私は行きます」「ここに留まるつもりはない」。彼らはドイツ軍の兵士になった。教師が、若者たちをそそのかす。それが戦争の現実なのだ。私は、狂気の社会の根っこをみたような気がした。


若者が送り込まれた先は、フランス北部の西部戦線。ドイツ軍が英仏米連合軍と対峙していた戦場だった。この映画は、第一次世界大戦の戦場での若者たちの様子を描いた「西部戦線異状なし」である。


西部戦線は3年半も膠着状態が続いた。塹壕の中から兵士たちは相手を襲う。敵兵に対し、銃弾を向ける。銃を持ちながらも、両軍の兵士は地上で、もみ合い状態になる。「密閉」ではないものの、まさに「密集」と「密接」。そんな場所が戦場だ。


この壮絶な戦いが繰り広げられる中、ある異変が起きていた。目に見えない“敵”の襲来だ。それがスペイン風邪だった。


環境ジャーナリスト、石弘之氏の『感染の世界史』(角川文庫)によれば、両軍とも兵士の半分以上がスペイン風邪に感染した。ドイツ軍では、20万人もの兵士を失った。英仏米の連合国軍も然り。アメリカ軍ではインフルエンザで死んだ兵士は5万7000人に及んだ。これは、戦死者の5万3500人を上回った。イギリス兵は200万人の大軍を出していたが、6月1日から8月1日までの間に120万人が感染した。


なぜ、ヨーロッパの戦場にスペイン風邪が出現したのか。


そもそものきっかけは、アメリカ兵だったという見方が有力だ。ヨーロッパ戦線に送り込まれたアメリカ兵の中に感染者が含まれていた。


アメリカ軍は第一次世界大戦の末期、大量に西部戦線に送り込まれ、終戦までに2回総攻撃を仕掛けている。そこに数多くの感染者が含まれていた。この連載で先にお伝えしたように、スペイン風邪の第一波は9月にアメリカに上陸した。最初に感染が広まったのは、アメリカ軍の基地だった。


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