「石原慎太郎さんとの私的な思い出 2」 続:身捨つるほどの祖国はありや 15
Japan In-depth / 2022年3月16日 23時0分
牛島信(弁護士・小説家・元検事)
【まとめ】
・参議院選挙に出馬し当選した石原慎太郎に三島由紀夫は嫉妬していた。
・石原慎太郎は三島由紀夫の死に方を気にしていた。
・私は、小説を書く人間は本質的に「女々しい」と思っている。
石原さんが亡くなったと聞いたとき、私には地の底に引きこまれるほどの悲しみはなかった。いずれそういう時、石原さんが亡くなったと知る時がくるとわかっていたからである。
17歳ちょうど年上、同じ誕生日の方だった。
しばらくお付き合いがあって、なくなって久しかった。その後はメディアを通じて一方的に情報を受け取るだけの日々が続き、いつかは石原さんの死を知るときが来るものと思っていた。
それにしても、石原さんはどうしてあれほどの人気者だったのだろうか?
初めての衆議院選挙に出たときのポスターの写真を覚えている。
選挙の写真とくれば、誰もがスーツにネクタイに決まっている。そこへ、ポロシャツ、ベージュっぽいクリーム色、の姿の石原さんは、なんとも異彩を放っていた。当時、私は大田区に友人宅があったから、彼の家を訪ねたときに見る機会があったのだろう。1972年、石原さんが40歳のときのことである。
ポスターの写真に私は少し驚いた。石原さん、政治家なのだからそんな気構えで大丈夫なのですか、と感じたのだ。
そういえば、石原さんはネクタイの嫌いな方だった。都庁でお会いしたときにも、ワイシャツ姿ではあっても、首もとが緩められていた。
ワイシャツといえば、初めてお会いした98年のとき、私なりに最も恰好の良いと思っていたクレリックのワイシャツを着て行ったら、
「君、そのワイシャツはなんだ。」
と来た。
私が、
「これ、一番いいと思ってるやつを着てきたんですが」
と答えると、
「そんなのはね、君、バンドマンとかそういう連中が着るものだよ」
と仰った。
私が、素直に
「では、どんなものを?」
たずねると、穏やかな調子で、
「白さ。」
「でも、白じゃつまんないじゃないですか」
「カフスのデザインを自分でやるんだよ。おしゃれっていうのは、そういうものさ」
と答えて、
「ほら」と、少し斜めに切れ込みのはいった石原さんデザインのカフスを示してくれた。
▲写真 東京で開催された日本オリンピックチームの見送り式でスピーチする石原慎太郎氏(2008年7月28日) 出典:Photo by Kiyoshi Ota/Getty Images
私は何着ものクレリックをしまいこんでしまった。
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