「石原慎太郎さんとの私的な思い出 2」 続:身捨つるほどの祖国はありや 15
Japan In-depth / 2022年3月16日 23時0分
選挙ポスターの続き。
もちろん私は間違っていた。圧倒的なトップ当選だった。石原さんは、なんといっても大変な人気者だったのだ。
でも、裕次郎に比べれば?
都知事出馬の際の記者会見で、冒頭「石原裕次郎の兄です」と自己紹介したことはよく知られている。
昔、『男の海 』という本(集英社 1973年)のなかに、三宅島にヨットで石原裕次郎らといっしょに出かけたときの逸話を書いている。
「東京の新聞社へ原稿校正の電話をかけに前の家にいって土間の縁先で一人座って待っていた僕を見、見物の中の一人の小母さんが、それでも小生が何たるかを存じていてくれて、
『ああ、こっちに慎太郎がいるのに、みんな裕次郎ばかり見て、誰も見てやらないよ。可哀そうに、悪いよお』と言っている。苦笑いでは申し訳ないくらいだ。三宅島島民の温かい心に涙が出たよ、全く。」(111頁)
それにしても、三島由紀夫が石原さんにどれほど嫉妬したことか。
36歳で参議院選挙に出馬し当選したこと、その選挙に実は三島由紀夫も出たかったとおもっていたことは、前回、『三島由紀夫の日蝕』(新潮社 1991年)に触れて書いた。
その引用のすぐ後に、三島由紀夫に言われたこととして、
「議席を持った後ある所であったら、
『もう君とは今まで見たいなつき合いかたにはなるまいから、最後に一つだけ忠告をしておくけど、君が将来どこかへ遊説にいく。その帰り道に海岸を通る。波の彼方に夕日が沈んでいき夕焼けが素晴らしい。そこで君が秘書官に車を止めさせて、この夕焼けをしばし眺めていこう、というようじゃ君は本物の政治家になれないよ。』
突きはなすようにいった。
『どうしてですか』
『いやそうなんだ。君は絶対に政治小説を書いたり、芸術的な政治をしようなどと思ってはダメだ。そんなことをしたら破滅するよ。』
『勿論わかっていますよ。僕は決して政治そのものを主題にした小説は書かないだろうし、芸術的な政治なんてあり得ないとも思っています。でもね。僕は公務の帰り道にでも車を止めて美しい夕焼けを眺めますよ。その感性が政治に不要なものとは絶対に思わないな。』
私がいうと、
『ま、いいだろう』
と氏はいっただけだったが。」(103頁)
そういえば、最近購入した『三島由紀夫 石原慎太郎 全体対話 』という文庫本(中央公論社 2020年)のカバーに、前回書いた三島由紀夫と石原さんの対談後の屋上での写真が大きく使われている。たしかに三島由紀夫はくだんの手袋をはめていて、ごていねいにも腰を屈めて石原さんとの身長差をわからなくしている。163センチと181センチなのだ、無理もない。男は身長が気になるのだ。
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