「石原慎太郎さんとの私的な思い出 2」 続:身捨つるほどの祖国はありや 15
Japan In-depth / 2022年3月16日 23時0分
結局、石原さんは、なによりも小説家だった人なのだ。政治の世界で会った人にはさして強い興味を抱かなかったと石原さんが晩年に述べているのを読んで、意外にも感じ、なるほどな、と私は納得したものだ。いや、そのとおりに違いないと確認する思いだった。
ここまで書いてきて、私は石原さんが私に期待したものがなんだったのか、やっとわかったような気がした。石原さんは、私に私なりの『太陽の季節』を書くことを望んでいたのではあるまいか。だから、著名な編集者を紹介までしてくれ、小説の書き方も教えてくれた。
伊藤整の『変容』を読んだことがあるか、と電話をくれたことがあった。あれは、未だ私が約束を果たしていないまま、見捨てられる前のことだった。
「私の愛読書の一つですよ」
と答えた私に、石原さんは、
「おかしいよね。読みながら吹き出してしまうよ」と感想を述べた。
伊藤整の役を務めている石原さんがいたのかなと、勝手に想像してしまう。
石原さんは、決して私と政治の話をしようとはしなかった。
「ダメですよ、あの人は書かないから」
そう、石原さんに紹介してくれた見城徹さんに言われた。そのとおりだった。
私は、小説を書く人間は本質的に「女々しい」と思っている。
谷崎潤一郎のようであればわかりやすい。しかし、石原さんも女々しかったのだろうと思う。
しかし、石原さんは女々しさだけではない人になってしまった。あっという間に人気者になり、そのうえ政治家になってしまった。どちらも、彼が自ら選んだことだ。
その人が、政治の世界では大した人に会っていない、と回顧し、人生の最後に「女々しく死んでやる」と言い放った。
今回、前回書いた『石原慎太郎短編全集』を買ったのが、1974年の7月1日のことだとわかった。
同じ芳林堂という池袋西口にあった書店で江藤淳の『夜の紅茶』を買ったのが1972年4月17日だった。760円だった。
それにしても、石原さんの短編集に一学生の身で4000円も投じたのかと、いささかの感慨がある。2冊本で、青い色に黄色の小さな短い帯があって、なんともすきな外装の箱入りの本ではあった。10センチ近い厚みがある。なんども迷った挙句だった。今の私にとってなら超高級オーダーメイドのスーツの値段だろう。いや、余裕が違う。もっともっと大決心だったはずだ。もちろん、すぐに読み終えた。ひょっとしたら、『灰色の教室』はその本で初めて読んだのかもしれない。
(つづく)
トップ写真:2016年の夏季五輪を目指したスイスでのプレゼンテーションに先立ち報道陣の前で話す石原慎太郎氏(2009年6月16日) 出典:Photo by Ian Walton/Getty Images
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