「石原慎太郎さんとの私的な思い出5」 続:身捨つるほどの祖国はありや 18
Japan In-depth / 2022年6月14日 12時0分
今回、その村野藤吾について調べていて初めて広島の平和記念聖堂が彼の設計にかかることを知った。私が小学校の5年と6年の2年間を過ごした幟町小学校のすぐ前にあるカトリックの教会で、私は図画工作の授業のたびになんども写生したものである。
石原さんは、昭和33年に『亀裂』を書いている。偉大な失敗作であると言われている作品である。私は昭和46年7月7日に新潮文庫で読んだ。21歳である。駒場の授業に、体育実技の他は出席が取られないのをいいことに、まったく学校には行かないでいた。6畳の木賃アパートで夜昼逆転した生活のなかで、本に溺れるようにして読んだのだろう。結核を患っている副主人公の女性が血を吐きながら主人公の都築明と性行為をする場面があったのが、今でもはっきりとした記憶に残っている。
石原さんが定宿にしていたとおぼしき御茶ノ水にある山の上ホテルの一室が場面になっている。
夫を亡くした母親が亡き夫の兄と男女関係にある、しかし「あれは俺の知ったことではない」、「どうでも良い」と独り言った石原さんとおぼしき主人公、都築明は、「“それよりもこの俺と言う、手前のことだ。今夜俺は何もせずただあちこち呑んだくれ、こうして今ベッドの上に靴をはいたまま転がっている。間もなくの用意が出来、一風呂浴びて明日の午まで寝るだろう。午からセミナーに出かけ、此処へ戻って来、後十日間で何とはなく、約束した短編と連載小説を合わせて三つ書くとい訳だ。」
そこで、都築明は、石原さんは、自分に問いかける。
「そんなことで――、こんなことでおい明よ、貴様は何かの仕事をやっているとでも言えるのか“」(72頁)
この「おい明よ、貴様は何かの仕事をやっているとでも言えるのか」という独白は、21歳からの私の心のなかで、なんどもなんども響くリフレーンになった。「オマエは、それでなにかをやっているつもりなのか」と。
山の上ホテルは、天ぷらの美味しいカウンターがあって、その後私は自分の金で行けるようになった後、なんども出かけたものだ。
そんなことをしているうちに今や72歳になった今でも、私は自分を問い詰めることがある。「こんなことで、おい、貴様は何かをやっているとでも思っているのか」と。
石原さんからの電話は、確かに伊藤整の『変容』についてだった。
ところが、ふしぎなことに、en-Taxiという雑誌の創刊号(2003年3月27日 扶桑社 70頁)では、こんな発言を石原さんはしているのだ。
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