「石原さんとの私的思い出7」続:身捨つるほどの祖国はありや23
Japan In-depth / 2022年10月13日 7時0分
「浜渦」、「鈴木」、「松下」、「美濃部」、「藤井」、「内田」、「松沢」といった名前が、次々と飛び出してきた。あげくには特捜部という言葉まで出てきたが、聞いている私には何の話かもよくわからない。
そんな話を一方的にしばらく続けたかと思うと、石原さんは突然、
「あなたは、事件とか経済界のこといっぱい知識があるけど、それを念頭に置かずに、いきなり恋愛を書けよ」
とおっしゃった。
「上司と秘書でもいい。背景が大きければ大きいほどいい。そうだ、心中になってしまうっていうのも面白いな。
女の名前、そーだあやこ、っていうのはどうだ?」
と話が進んで行く。
「上司と部下でもいいんだよ。
あなたのなかでは、人間としての感情が二の次になっているんじゃないか。
会社の細かいことを一度捨てないとだめだよ。
そうしないと、限られた数の人間はいいなと思ってくれても、たくさんの人々は読んでくれはしない。
読者の読みたいのは、恋愛なんだよ、恋愛!」
と言われてしまった。
「『天の夕顔』って本、たしか新潮文庫に入っているから、それ読んでごらん。」
そう言えれて、私は、わかりましたと即答してから、
「ところで、石原さんが賀屋興宣さんの官報を通じての恋について書かれた、あの小説はいいですね」と申し上げた。不思議な偶然だが、その時私は未だ『天の夕顔』という作品を読んでおらず、後になって知ったことだが、この二つの小説は内容がなんとも共通している。何十年にわたる長い期間、人妻、そして結局は成就しなかった恋、である。
私は、その賀屋興宣さんにかかわる石原さんの『公人』と言う小説を以前に読んでいた。その時から素晴らしい作品だと思っていたので、恋愛が話題になったのを機会にも話したのだった。
ところが、石原さんは、どういうわけか言下に、
「ああいうのはダメ!」とぴしゃりと言われた。
いま思い返しても不思議な気がする。
『天の夕顔』という作品は、私は題名しか知らないでいたが、長い間にわたっての、人妻との、プラトニックな恋愛を描いた作品なのだ。1938年に中河与一によって書かれ、欧米でも世評が高いという。
それにしても、石原さん自身の『公人』という小説について、「ああいうのはダメ!」と石原さんが言ったのは、いったいなんだったのだろうか。
私は、石原さんにいわれてさっそく新潮文庫の『天の夕顔』を手に入れ、2006年の1月22日には読み上げた。しかし、読んでは見たが、なぜあの石原さんがあんな風に私に強く薦めるのか、解しかねるという気しかしなかった。
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