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「石原さんとの私的思い出7」続:身捨つるほどの祖国はありや23

Japan In-depth / 2022年10月13日 7時0分

これは、石原さんが意識して書いたのかどうかはわからないが、私には、石原さんの本質を見事に表していると思えてならない。


実は、『天の夕顔』は、1948年に新東宝によって映画化されている。石原さんが16,7歳のころ。たぶん、と私は想像する。石原さんが高校を休学していたころのこと。石原さんはその映画を観ている。なんと、その映画の、主人公の男よりも7歳年上のヒロインは高峰三枝子が演じているのだ。実際には、彼女は石原さんよりも4歳年上だから20歳を過ぎたばかりのころということになる。


『「私」という男の生涯』には、『天の夕顔』もその映画のことも出てこない。そのかわりに、自作の映画の稽古で高峰三枝子とすれ違った話が書かれているというわけだ。


そういう人なのだ。純粋で、恥ずかしがりで、なにごとにも後ずさりせずにおれない人。


それが、『太陽の季節』でデビューしたばかりに太陽族の頭目にされてしまい、自分でもそれを演じているうちに、本当の自分を見失ってしまった、長い残りの人生。


プラトニックな恋愛を、叶わぬ恋を一番素晴らしいものとして心に抱き続けていた人。「忍ぶ恋」こそが本物の恋と、われとわが心のなかで憧れていたのではないか。


たぶん、石原夫人はその間の事情をようく知っていたに違いない。


それにしても、石原さんは、どうしてこの私にそんな秘めた話の断片をせずにおれなかったのか。


次の電話は、1週間後だった。2006年の1月7日に15時14分から32分間。


やはり後に『火の島』になった小説のストーリーの話だった。


「あなたに前回教えてもらってね、考えたんだ。


こんなのはどうだろう。


主人公が銀行の頭取を、銀行の不良債権のことで脅すんだ。


『私の言うとおりにやれば、うまく処理できますよ。あんたなら頭取なんだ、鶴の一声で決められるじゃないか。新しい会社をつくるんだよ』ってね。


どうだろう?」


私は、


「面白くなってきましたね。でも、問題はどんな具体的中身をその新しい会社で実行するかですね。」と答えたような気がする。


すると石原さんは上機嫌で、


「小説ってのはね、たとえば手袋を引っ繰り返すとかいうちょっとした仕草が大事なんだよ。話が少し横に飛んだっていいんだ。」


と文章術を授けてくれた。


「牛島さん。恋愛だよ、恋愛。


石原にそう言われたけど、しょせん自分の書く恋愛は砂漠に咲いた花にしかならないんだ、って言うのなら、それでがいいんだよ、それがいいんだよ。」とまで手ほどきしてくれた。


実は、この石原さんと彼の『火の島』のためのやりとりは、2002年5月10日には始まっていた。


(つづく)


トップ写真:オリンピック招致委員会のリーダー石原慎太郎 (右) と日本オリンピック委員会の河野一郎委員長は、コペンハーゲンのベラセンターでに記者会見に出席(2009年10月2日)


出典:Photo by Peter Macdiarmid/Getty Images


 


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