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平成10年の年賀状①「パリ、レンヌ通りの夏」

Japan In-depth / 2023年4月11日 15時22分

平成10年の年賀状①「パリ、レンヌ通りの夏」


牛島信(弁護士・小説家・元検事)





【まとめ】


・1997年の夏、パリ滞在中の家族と過ごす為、NYからコンコルドに乗った。


・空港に迎えに来たリムジンの日本人ドライバーは元自衛隊員でフランス外人部外に所属していた男。


・その青年との出会いは私の人生観、世界観を変えたような気がしている。


 



年頭にあたり皆々様の御健勝をお祈り申し上げます。


昨年のご報告を一、二、申し上げます。春。子供二人の受験に追われました。普段はさぼりがちな父親業のツケをダブル・ヘッダーで一挙に払いました。


夏、その一。髪を、昔「慎太郎刈り」といった、あの形にしました。お蔭で最近は良く床屋に行きます。


夏、その二。初めて小説を出版しました。


夏、その三。出張先のニューヨークからパリへ、コンコルドに乗って行きました。天井の低くなったところに頭がぶつかった時、ゴツンと音がしました。まわりの人は「あ、音速を超えた音だ!」と思ったかもしれません。二十三年振りの「薫る巴里」です。


秋。広島へ帰り、それから父と一緒に九州へ行きました。生まれて四度目のゴルフもしました。


冬。浪人時代の寮の同窓会がありました。会場への途々「十九年にもなるのか」と感慨に耽っていたのですが、実は二十九年振りでした。私の四回目の「牛の年」は目眩く間に過ぎてしまったようです。


何卒本年も宜しくお導き下さいますようお願い申し上げます。



ニューヨークのJFK空港にはコンコルドのための特別のチェックインカウンターがあった。エールフランスだった。そこには2名の先客があって、私よりもまえに中年の男性と女性がチェックインの手続き中だった。見たところご夫婦のようだ。後ろ姿だけだったが、エールフランスのコンコルド用の受付カウンターという特別の場所にふさわしく、上品で優美な、エレガントな姿がエドワード・ホッパーの描いた絵からそのまま抜け出してきたような雰囲気を漂わせている二人連れだった。自分の番になった私は、手続きを終えて歩み去る二人を見送るかたちになった。急ぎ足で遠ざかってゆく二人はなにやら会話を交わしている様子だ。その姿が、エールフランスの広告用のポスターでなければ映像にでもふさわしいような、香りが立ちのぼるような素敵な光景だった。私もコンコルドに乗るので少し高揚していたのかもしれない。連れの女性がなく独りきりなのが少し残念な気がした。コンコルドの座席は二人が並んで座るのだ。1997年の真夏のことだった。


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