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平成15年の年賀状「宮島、パリ、青山と私」・「広島へのセンチメンタル・ジャーニーと青年弁護士のボルネオ島への旅のことなど」

Japan In-depth / 2023年6月16日 11時0分

「オートバイもやるで。


ハンググライダーもでけるよのお。」


その夏には、義兄のクルーザーに乗せてもらっての花火見物も予定されていた。


「わしが自分で操縦するんで。もう船の免許をとってからだいぶになっとる」


「伯父さん、なんでも乗ってるんだね。」


義理の伯父の自慢話を黙って聞いていた24歳の長男が義理の伯父に話しかけると、義兄は上機嫌で答えた。


「おお、わしゃあ乗りもんが好きじゃけえのお、なんでも乗っとるわい。」


あくまで上機嫌だ。


そこで、長男はふっと、なにげない調子でたずねた。


「伯父さん、車イスに乗ったこと、ある?」


そう問いかけた長男は、自慢話ばかりをする義理の伯父を揶揄する思いがどこかにあったのかもしれない。24歳の青年なのだ。そうだとしても不思議ではない。飛行機の操縦ができることを天真爛漫に、いかにも誇らしげに語る義理の伯父の言の葉を聞きながら、反対に、車イスを使わなければ身をほんの少しも移動することもままならない人々のおかれた状況を思い浮かべずにおれなかったのだろう。いや、ひょっとしたら私自身がふだんの義兄との付き合いから、その時にそのように感じたから、その思いを長男に重ねただけであって、長男にはそうした気持ちはなかったのかもしれない。


いずれにしても私は、如何にたくさんの金を費やして人生を謳歌しているかを義理の甥たち相手に誇ってみせる義兄、長男にとっての義理の伯父に対して、「伯父さん、車イス乗ったことがある?」という質問をした長男のウィットに感心してしまった。


果たして、「車イス?車イスか。車イスは・・・えーと、ないな」


義兄は憮然としてそう答えた。


翌日だったか。彼のクルーザーで宮島の鳥居のすぐ下へ行った。もちろん海上である。そこに錨をおろして船を泊め、両親、義兄、姉、そして私の家族4人の合計8人で宮島の花火を鑑賞したのだった。いや甥二人もいて10人だったかもしれない。広島で自営業を営んでいる義兄はそのころ景気が良かったのだろう。ある意味で大いに男気のある、気のいい人物でもあった。


海の上だからこそ可能になる、正に花火の真下からの見物だった。得難い経験をさせてもらった。ふつう花火は離れて遠くから眺める。それが真下から眺めると、花火の光というものが実は丸い玉なのだとよくわかる。火薬が爆発して花火になるのだから、爆発点から等距離に拡がるというのは当たり前といえば当たり前であろう。ふだん夜空高く上がる花火を遠くから眺めても二次元にしか見えない。紙に描いた花火と同じである。球形の花火を見ると、なるほどどの方向から見ても花火が丸く見える理由がわかったような気がした。


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