平成15年の年賀状「宮島、パリ、青山と私」・「広島へのセンチメンタル・ジャーニーと青年弁護士のボルネオ島への旅のことなど」
Japan In-depth / 2023年6月16日 11時0分
「中年のマダム」と書いている。そうなのだ、パリの女性となるとどういうわけか中年がしっくりくる。女性について中年であること、そう見えることを評価するのはフランスだけの文化ではないかと思ってみたりもする。太っても痩せてもいなかった。彼女とは英語で話したのだろう。あるいは片言のフランス語だったか。
大学生だった時のこと、友人に誘われてヨーロッパ3週間というパッケージツアーに参加したことがあった。東大の生協で申し込んだのだった。未だ外国旅行が一般的ではなかったころだ。夏の旅行から帰ったらその友人は司法試験に合格していて私は落ちていたから、23歳のときのことだったろう。
シャルトルにある教会を観に行こうと駅で切符を買おうとして、「シャルトル」と精一杯フランス語らしく喉彦を震わせる発音して駅員に説明する。わかってくれない。何回も同じやりとりが続いた。しまいに駅員が「シャトーに行きたいってことは分ったよ。だから、どこのシャトーに行きたいんだと訊いているんだ」と言われたときにはショックだった。しかたがない。思いっきり日本語の発音で「しゃるとる」と発音すると、「オー、シャルトル」と答えてくれた。情けない思い出だ。
「地下鉄の東西線」といえば、司法修習生だったときに浦安駅近くに住んだ。住所は市川市だった。広々とした角部屋のうえ最上階の3LDKで、国際関係の弁護士になることを決めていた私は、就職予定の法律事務所のある大手町への便の良い浦安のマンションから通うことにしようと、修習生の間に借りたのだ。セイタカアワダチソウがたくさん生えた荒地の中にあった。
ところが私は検事になることに決めた。日当たりの良い、自分の書斎兼寝室で考えこんだのを覚えている。どうして国際的な仕事をする弁護士になるつもりで張り切っていたのに検事になったのか。
「検事には将校と兵隊があるんだよ。君はもちろん将校だよ」という、検察教官の言葉が決め手だったろうか。私自身が国家権力というものへの好奇心を持っていたからだったろうか。
採用を決めてくれていた法律事務所に進路変更を告げてお詫びに行った。なんども行った。その度に私に目をかけてくれていた十数歳年上のパートナーの弁護士だった方が、向かいの丸の内ホテルの地下にあるバーに連れて行ってくれ、ホワイトホースという名のスコッチウィスキーを飲みながら「君はやっぱり弁護士になれよ」と説得を繰り返した。未だホワイトホースが高級スコッチウィスキーだった時代である。瓶の頭に無数のホワイトホースの小さなフィギュアがかかっていて、彼がそのバーに通っている長さと頻度を示していた。歌舞伎座近くの中華料理屋で豚の耳を食べさせてくれたこともあった。
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