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平成15年の年賀状「宮島、パリ、青山と私」・「広島へのセンチメンタル・ジャーニーと青年弁護士のボルネオ島への旅のことなど」

Japan In-depth / 2023年6月16日 11時0分

もちろんメインの弁護士はパートナーだったN弁護士である。しかし、彼もまだ40歳前後でしかなかった。それにアメリカ人の若い弁護士がいっしょだった。


この仕事を始めたときにこんなことがあった。


依頼者はマレーシアのサラワク州の木材伐採権を有する会社の全株を持ったオーナーで、その有していた株の半分を三井物産に売るという契約をめぐる紛争だった。私の前に担当していた若いM弁護士がアメリカに留学するので、訴状を出す前に私が引き継いだのだ。


「これ読んでくれたら、だいたいなんのことが分かるから」


と彼は、いとも気軽に厚さ3センチほどの書類を手渡してくれた。すべて英語の文書だった。


「ほかにも関係した書類がファイル何冊か分あるけど、いっしょに担当しているGに聞けばよく知っているから大丈夫だよ」


とのことだった。Gというのはアメリカの弁護士で日本では弁護士としての資格はなく、ラビノウィッツの下で英語の法律事務の処理を手伝っている女性の名だった。Gはファーストネームで姓はSといった。とてもふっくらした、私と同年配の女性で、夫は日本の囲碁のプロということだった。その後もたくさんの仕事を彼女とはやる機会があったが、とても頭の良い、素晴らしい方だった。彼女とは英語での法律事務の議論をずいぶん愉しんだものだった。


その「一杯ある関係した書類がファイル何冊」という書類の頁を、私の目のまえで指を舐めながら繰り、「I see.」と呟きつつ、隣に座った私に英語で中身を説明してくれた。そういえばリングファイルという便利なものの存在を知ったのもその時のことだった。いまではもう流行らないだろうが、書類の束を綴じる二つの金属の丸い輪があり、その輪を上下方向にある同じ金属のS字型のレバーを動かすことで開閉することができるという優れモノだった。


M弁護士から薄からざる英文書類を渡された私はそれを読み解き、訴状をドラフトした。正確にいうと、私とG弁護士が英語で議論しG弁護士が英語で訴状案を作る。その案を私が翻訳を兼ねて検討し日本語の最終案にして、担当パートナーであるN弁護士に見てもらうのだ。


請求金額は20億円だった。


私は自分で裁判所へ出かけて訴状を受け付けてもらった。たくさんの印紙を貼らなくてはならなかった。印紙だけで1000万円くらいだった記憶だ。10万円が印紙一枚の最大金額だった。大量の印紙を貼った訴状を書記官がコロコロと回転する金属のハンコで印紙にインクを付けて消印しながら、「おやおや、こんなに大量の印紙を貼った訴状は初めてだな」と軽妙に言って受け付けてくれたのを覚えている。


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