平成22年の年賀状「明治の日本、戦後高度成長の日本」・「場所と私、人生の時の流れ、思いがけない喜び」・「紅茶と結石と年賀状」
Japan In-depth / 2023年8月16日 23時0分
『明治の日本、戦後高度成長の日本』
【まとめ】
・73歳の私は肉体は弛んでいても、心は少しも変わらず若いままだ。
・鴎外は、後の世のためにできることに残り少ない命を燃やし尽くさずにおれなかった。
・外車、飛行機、フルーツパフェ、高度成長は10歳の私にも感じられた。
「南山の戦いを終え二十年前のベルリン時代を想う鷗外の感慨」は、私のものでもあります。」
ほう、13年前、私はそんなことを考えていたのか。
しかし、南山の戦いを終えた鷗外はまだ42歳に過ぎない。いまの時代なら青年に近いであろう。なぜ「老いにけん」なのだろう。いくらなんでも、あの鷗外にして少し過剰にセンチメンタルではないかと思ってしまう。
ところが、調べてみるとどうやら急速な平均余命の伸長があったようなのだ。鷗外の時代の42歳は今の70歳に近いのではないか。
だとすれば、鷗外にしてみれば、恋愛の対象だった女性ももう60歳を過ぎてしまったとの感覚があってのことだったのだ。それを「老い」と呼ぶのは、当時の鷗外にとっての率直な感想だったのだろう。年齢が恋愛の可能性の基準だからであろう。その意味で42歳の鷗外は老人である。
鷗外のベルリン時代は、若い俊才が「昼は講堂や Laboratorium(ラボラトリウム) で、生き生きした青年の間に立ち交つて働く。何事にも不器用で、癡重(ちちよう)といふやうな処のある欧羅巴(ヨオロツパ)人を凌(しの)いで軽捷(けいせふ)に立ち働いて得意がるやうな心も起る。」そんな生活をしていた。(『妄想』)
その青年が20年後にブロンド髪の恋人を思い出し、「こがね髪 ゆらぎし少女 はや老いにけん」と詠う。何年経っても世間の興味はこの恋愛事件にある。鷗外の留学中の、そしてこがね髪の女性が東京にまで訪ねてきたという一大恋愛事件にある。鷗外が書いた小説『舞姫』のエリスがその相手に違いない、どんな女性なのか、ということの探求にたくさんの人々が本を著し、テレビ番組にまでなった。こがね髪ではない写真を掲載している本もある。
鷗外はただの小説家ではない。漱石と並ぶ明治期最高の作家の双璧のひとりであり、かつ、漱石にはなかった官位までがある。軍医総監だったのである。三島由紀夫があのまま大蔵省に勤めていて大蔵次官、いまでいう財務次官あるいは財務官になったようなものであろうか。俗世間では軍医総監が重要である。そういう高位高官が小説も書くから鷗外は別格なのである。今の時代のサラリーマンから見て、特別の「二足の草鞋」の人なのである。
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