「平成30年の年賀状」団塊の世代の物語(2)
Japan In-depth / 2024年3月13日 23時13分
現に石原さん自身が、
「昔、『男の海』(集英社、一九七三年)という本の中に、三宅島にヨットで石原裕次郎らと一緒に出かけたときの逸話を自嘲気味に書いている。
《東京の新聞社へ原稿校正の電話をかけに前の家にいって土間の縁先で一人坐って待っていた僕を見、見物の中の一人の小母さんが、それでも小生が何たるかを存じていてくれて、
「ああ、こっちに慎太郎がいるのに、みんな裕次郎ばかり見て、誰も見てやらないよ。可哀想に、悪いよお」といっている。苦笑いでは申し訳ないくらいだ。三宅島民の温い心に涙が出たよ、全く。》」(111頁)。
私がまだ書きつづけていることのついでに言えば、この『団塊の世代の物語』というのは、私なりの畢生の大作のつもりの小説だ。戦後日本の総括。個人がいて社会がある。生まれ、育ち、働き、年老い、やがて消え去る。占領軍による優生保護法の修正のせいで人工的にできあがった、1949年までの3年限りの戦後日本のベビーブーマー世代である団塊の世代。アメリカのベビーブーマーは1964年まで続いているのに、日本は3年きりで終わってしまった。アメリカが決めたことである。
なによりも、団塊の世代にとって日本は、明日は今日よりも良くなるに決まっている国だった。今は違う。団塊の世代は800万人が生まれて700万人が生きている。前後を容れれば1000万を超える人々が生きている。しかし、日本は変わってしまった。
「弁護士の仕事の緊張」も少しも変わらない。いや、そもそも志したわけでもない弁護士事務所という組織の経営者役が重みを増してくるだけ、緊張はより張りつめているのだろう。なにもかも天命だと思っている。私には神を信仰するということはなかった。しかし、人智の及ばない世界があるだろうとは実感している。人は生きているつもりでも、生かされているということになるのだろう。孫悟空に似ている。
ここまで書いてきて、『団塊の世代の物語』の構想は「昔を偲ぶ心境」なのだろうかと自問する。
鷗外は書いている。
「老は漸く身に迫って来る。
前途に希望の光が薄らぐと共に、自ら背後の影を顧みるは人の常情である。人は老いてレトロスペクチイフの境界に入る」(『なかじきり』)
60歳まで生きた人が55歳の時にかいた文章である。
それとは少し違うと思う。
現に、「夢のなか、若いまま、なのです」などと68歳のときに書いている。
最近では還暦ときくと、なんて若いんだ!とおもう。おもうが、ほんとうに私とそう違うような気もしない。
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