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「平成31年の年賀状」団塊の世代の物語(3)

Japan In-depth / 2024年4月11日 21時43分

最近出演したBS11の「団塊物語」というテレビ番組の1回目で、いま健康な理由をたずねられ即座に週2回のこの定期的な運動をあげた。66歳の正月にふと感じた体力の衰えが、高校生のときいらいの本格的な運動に心をむけるきっかけだったのだ。あの漠然とした、しかし確実なものとして感じさせられた老化の予感をはっきりとおぼえている。それで8年前のゴールデンウィーク明けに運動を始めたのだ。





こんなに長くつづくとはと心地よい感慨がある。続いている。どんなことよりも優先して取り組んでいるからだ。私のスケジュールの大半は私が決めることができる。だから、病気のとき以外は休んでいない。





初めて片脚で立ち上がってみてくださいとトレーナーの方にいわれたとき、私はピクリと動く気にもなれず、口で「とても無理です」とだけ反応した。





運動するたびに思う。同じ団塊の世代の人間のうちのどのくらいの割合がこうした定期的な運動にいそしんでいるのか、と。2年半前に亡くなった、1歳年上の方の姿を思い浮かべる。元気そうにしていて、急に痩せて、おやおやと心配していたら、半年ほどで元に戻られた。元気で仕事もつづけられている姿に安心していたら、入院されたとうかがった。訃報は2か月後だった。





「相変わらずの野心家」か。そうだよな、いまもむかしも、と自分でおかしくなる。





でも、なにへの野心だろうか。





欲望といいかえてみても、具体的ななにかは見えない。見えなくとも日夜こころをさいなむ。





「ゆゑだもあらぬこのなげき。





戀も憎みもあらずして





いかなるゆゑにわが心





かくも悩むか知らぬこそ





惱のうちの





なやみなれ。」





私は、ヴェルレーヌのこと「都に雨の降るごとく」と題する詩については、やはり鈴木信太郎の訳が好きだ。





「大地に屋根に降りしきる





雨の響きのしめやかさ。





うらさびわたる心には





おお 雨の音 雨の歌」





そして、題名のすぐあとに「都にはやかに雨が降る。(アルチュール ランボオ)」とプロローグが記されている。





その「ヴェルレーヌが息を引き取った ホテル」の最上階の部屋に21歳のヘミングウェイは部屋を借りて仕事場にしていた。(『移動祝祭日』高見浩訳 15頁 新潮文庫)





主に妻のハドリーのおかげで、「パリの平均的な労働者の平均的な年収の約十倍」の収入がありながら、「その昔、私たちがごく貧しく、ごく幸せだった頃のパリの物語である。」と『移動祝祭日』を結ぶ(同書300頁)。そう書かずにはいられないヘミングウェイの切実な、朽ち始めた精神が剥き出しになった物語だ。貧しく、野心に燃えていた、若く「ごく貧しく」、そうであればこそ「ごく幸せだった頃のパリ」と死の数年前に書いたヘミングウェイ。彼の、切れば血の流れてきそうな心がなんとも切ない。





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