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「平成31年の年賀状」団塊の世代の物語(3)

Japan In-depth / 2024年4月11日 21時43分

「それに、斎藤峰夫氏に戸籍上の子どもがいるってのも不思議な話じゃないか」





「なにいってるの、決まってるじゃない」





英子は一瞬つめたい表情をみせると、口から食べ残しの小さなカスを吐きだすように言った。<バカねえ>という昔の英子の声がした。





「じゃ、斎藤氏の配偶者、つまり奥さんの不倫てわけか」





ゆっくりとあたま全体をしたにうごかして、英子がうなづいた。





「いやあ、おどろいたね。まるでレビ記の世界だね」





「小さな世界にいると、だれもが密接になるの」





こともなげだった。





「でも、どうしてあなたは峰夫氏の子どもを産むことができたの。女性を妊娠させる能力がなかったんだろう」





「そんなこと。なんだ、長友くんがとっくに説明済みかとおもってた。





峰夫はね、精子がすくないだけで、通常の方法では女を妊娠させられないの。だけど、医者に手伝ってもらえばできるのよ。そうやって作ったのが次男なの。みんな長友君のおかげ」





「そうなのか。そういえば、ああ、長友君、言ってたよ。大阪の産婦人科医を紹介したって。へえ、あれってそういう複雑な話だったのか」感に堪えないとでもいうようにうなづく。





<やっとわかってくれたのね、ありがとう>といわんばかりに英子がこんどは大きくうなづいた。大阪の産婦人科の医院での長かった日々のことを思いだしているんだろうなと大木は感じた。いろいろと大変なことがあったにちがいない。





「峰夫は認知しているし、問題ないと思ってるんだけど」





「問題は大ありさ。認知のほうは遺言でしているんだったけね」





「でも、峰夫の長男は峰夫の子じゃない。子どもができないから私たち苦労したんだから」





「私たちって、峰夫氏とあなただね」





決まりきったことを、といわんばかりに少し力をこめて英子がうなづく。





「私たちの子どもが欲しい、なのにどうしてもできない、ということになってから、私たち必死になったの。」





「だから二人で医者に行ったんだ」





「そう」





「で、医者に宣言されたわけだね、『峰夫さん、あなたは子どもができない身体です』って。





おどろいただろうね。」





「そりゃそうに決まっているじゃない。峰夫の長男は未だ成人していなかったのよ。それが自分の子じゃない?いったいなにがあったのかって、誰だってわかるでしょ」





「そう。峰夫さんの奧さんが不倫して子どもをつくったんだ。それを素知らぬふりをして峰夫の子どもとして届けた。」





「でも、それって峰夫さん自身が現在進行形の不倫の身で、あ、ごめんよ、あいてはあなただ」





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