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「平成31年の年賀状」団塊の世代の物語(3)

Japan In-depth / 2024年4月11日 21時43分

だいいち、そういうときには依頼者の了解をとらなくてはならないと弁護士倫理が定めている。いまでは弁護士基本規定と呼ばれているが、おなじことだ。





もし、すでに依頼されている会社と同じ上場会社の少数株を英子の会社が持っていれば、どちらの代理もできなくなるかもしれない。





「どこの株を持っているの」





大木はきいた。





「全部はおぼえてない。たくさんあるの。リストがある。





でも、これは峰夫のやり残した仕事だから、私が広島興産の代表者としてやりたいの。





だから、あなたにてつだってほしいの」





英子がテーブルのうえに小さな、血管の浮きだしてしまった両手をきちんとかさねて、深くあたまを下げた。爪はそのままの肉色でなにも塗られていない。下げた頭の髪は、左右にわけられ後ろでていねいにまとめられている。下げた頭の髪の分け目からほんの0.5ミリたらずの白髪が地肌から伸びてのぞいている。





<ああ、そうなんだ、74歳なんだ>





大木の胸に、英子を抱きしめたいような思いが走った。おたがい、いろいろなことがあっての74年だったよね、あのとき、幟町のウチに来てくれた日から62年になるんだものね。これは男女の欲望ではない。大木はそう感じた。





「ありがとう。





でもね、似たような仕事をいくつもしているから、コンフリクトを調べないとね」





「なに、コンフリクトって」





「一人の弁護士が原告と被告の両方の代理をするわけには行かないだろう」





「そのほうが話が早くていい気がするけど」





「おやおや、困ったことをおっしゃる」





「こうして広島から参上したんですから、お断りにならないでくださいね」





そのセリフは、英子がこれまでのビジネスで多用してきたのだろう。そうした粘り気のある声音だった。





「まあ、できるだけのことはさせていただきます」





大木が重い荷物を背負いこんだ瞬間だった。





トップ写真:外国特派員協会での記者会見に臨む石原慎太郎氏(2009年1月13日)出典:Kiyoshi Ota/Getty Images




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