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「平成31年の年賀状」団塊の世代の物語(3)

Japan In-depth / 2024年4月11日 21時43分

「いいわよ、本当にそうだったんだから」





英子が鼻でわらった。





「ふーん、で、どうなったの」





「どっち?長友君に頼んだほう。それとも峰夫と奥さんのほう」





「いやあ、そうだね。長友君に頼んだほうはだいたいわかってるから、峰夫氏の奧さんのことから聞こうか」





「もういなかった」





「え?」





「もう死んでいなかったの」





「10年まえに亡くなったと言ったでしょう」





「峰夫、とっくに別れていたの」





「ふーん、でもあなたは峰夫氏とは結婚していないんでしょう」





「不思議?」





「とても」





「私は夫がいたの」





「でも、死んだ」





「そう。でも、峰夫も私も結婚は望まなかった」





「なぜ?」





「どうして、なぜなの?」





「だって、ふつう」





「ふつう、どうだっていうの?」





「好きな男と女がいて、二人ともフリーなら結婚するんじゃないの」





「じゃ、好きな男と女がいたんじゃないのかな」





英子との問答はなぞめいていた。が、なかみはない。そういえば、





と大木は思う。英子は子どものころからそういう掴みどころのない女性だった。





大木は嫡出否認と親子関係不存在についての最高裁の判例を思いうかべていた。





たとえ生物学的には親子関係が不存在でも、嫡出子としての推定のある子どもについては親子関係不存在で争うことは許されないとした判断だった。いまどき、という気もするが、最高裁で判決が出たのは平成26年7月17日のことだ。ちょうど10年前のことになる。





嫡出の推定はその否認訴訟のみによって争うことができ、それは子の出生を知ってから1年以内でなくてはならない。





「そのことは、最高裁判所の判例があってね」





「ハンレイ?」





「最高裁判所で決まったってことさ」





「でも、変えればいいじゃない」





「なかなかそうもいかないさ」





「だから、大木君、あなたのところへ来たんじゃない。なに言ってんのよ」





英子が唇の両端を左右に引きながら、頬と目とでかるく笑ってみせた。





「うん、僕も実は可能性はあると思ってる。有力な反対意見が最高裁判決にもあるしね」





「そりゃそうでしょ」





英子は最高裁の反対意見のことなど興味がないのだ。ものごとの筋道は自分のなかに確固として存在している、というふうだった。





「目的は峰夫氏のご長男に相続権がないことだね」





「そう。そうなれば峰夫の財産は会社ごとぜんぶ次男の悠次郎に行く」





「でも相手はかならず争う。きっと最高裁まで行くことになるよ。





問題は、それまでの間、3年は最低かな、ご長男が広島興産という会社のオーナーだっていうことだ」





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