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「令和3年の年賀状」団塊の世代の物語(5)

Japan In-depth / 2024年6月12日 19時0分

「昨晩は失礼しました。」





そう詫びる三津野に、大木は半ば微笑みながら、





「三津野さんにご紹介したい方がいましてね。矢も楯もたまらないので、夜の9時半に電話しました。こちらこそ失礼しました。」





明るい声で話すと、





「岩本英子さんという方なんです。





もっとも、三津野さんのことは昔からご存じだという話なんですけどね。」





「岩本英子さんだって。





驚いたな。あの、花の女王かい。こいつは驚いた。





なんであんたが。





それはいいや。彼女、僕のことおぼえていてくれたってことか。」





三津野は上機嫌に大声をあげた。





天下の滝野川不動産の元実力社長にして財界の雄の反応がこれだった。





「三津野さん、憶えているみたいですね。」





大木はわざと声を潜めてささやく。





「先生、憶えているみたいですねだって。もちろんさ。





あんたもわかるだろう、男には誰にも少年時代があって、そのときに自分の花の女王に巡り合う。





そうやって出逢った花の女王を忘れる奴なんていないさ。生涯忘れるもんじゃない。いや、歳をとればとるほど思いは募る。とくに僕みたいに先が短くなってくるとね。





あんたの花の女王が誰かはしらんけど、ね。だいいち、あんたは未だ若い。





いやまて、あ、そうか、あんたの花の女王は僕と同じ女性だってわけか。こりゃ参ったな」





まだお互いに自宅にいてのやりとりだった。大木はまだスーツに着替えていない。新聞を読みながら朝ごはんを食べる習慣だから、チノパンツをはいてポロシャツを着ている。いちおう、ベッドのなかにいるときの慣れた木綿の下着姿ではない。大木はパジャマを着る習慣を廃してから、もう何十年にもなる。「メリヤスの、着古した下着が眠るのには一番いい」と真からそう信じている。





<男はみんなそんなもの、か。また三津野さんには教えられたなあ>





大木は朝から上機嫌になっていた。





タグ:牛島信、カプチーノ、団塊の世代、




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