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「令和5年の年賀状」団塊の世代の物語(7)

Japan In-depth / 2024年8月16日 23時5分

その女性と三津野が昔の知り合いだったとは。





「どうしてあなたは、正式な夫がいたのに、長友という方の子どもを産んだの」





三津野は聞かずにおれなかった。





岩本英子の勲章譚が始まった。





岩本英子の第一話





「ふふ、誰だってそう思うわよね。あなたにはいずれ聞かれるとはおもっていたけど、待ってました、よくぞ聞いてくれました、っていう感じ。





長友先生とは小学校の同級生なの。あ、これ知っているわよね」





「もちろん!」





「夫とは、それなりに惚れ合って結婚したの。お互いにそう信じてた。





でも、夫の好きと私の好きは意味が違ったのね。





夫は私を一番好きだったから妻の座を与えてやったということみたいで、それでいいじゃないかっていうことみたい。結婚ていうのは、そういう等価交換の取引だって信じていたのね。





私は違った。





男と女の違い。少なくとも団塊の世代の男と女の違い。」





「僕も団塊の世代だ。妻の座を与えた、か。そういうふうに思ったことはなかったな。まさか僕の妻はそう感じていて、そういう僕を身勝手だと思っていたのかな。話したことはないけれど。」





「個人差が大きいでしょうけどね。私は平均点」





「でも、亭主以外の子どもを産むのは平均からずいぶん外れているよ」





「そうね。





あんなことがなければ、そんなことにならなかった。」





英子が大きく息を吸う。言葉がとまった。





頃合いを見計らったように、ほい、と馴染みの寿司職人の声とどうじにムラサキウニの軍艦巻きが二人の目のまえに置かれた。





英子が右の箸でつかんで、閉じていた口を開けて放り込む。海苔を砕く音がかすかに漏れた。三津野も同じことをする。口のなかに海苔の香りがひろがった。





「新婚の自宅に別の女性を連れてきたりする?





男ってそういうことができる動物みたいね。」





手もとのシャンパングラスの表面に、泡が細長く縦の一筋になって絶え間なく上へ上へとのぼっている。ここにはいつものクリュグはおいてない。軽く一口すすってゆっくりと飲みこむ、英子は三津野に向き直った。





「男ってそういうことができるんだ、と思ったの。





だから、新婚だった長友君を誘い出して、奥さんが実家に帰る日を聞き出して、その日に会ったわけ。





妊娠するためにね。」





「えーっ」





三津野には想像もできない。





英子は半世紀前のできごとをまるで他人事のように語っていた。





「で、長友はうかうかと」





「そう、うきうきとね」





<男はそういうバカなところがある。花の女王の誘いとあればいそいそと、か。新婚だったというのに。この団塊の世代と言うのは少し狂っているのかな。この俺もその団塊の世代の一人なんだが>





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