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「令和5年の年賀状」団塊の世代の物語(7)

Japan In-depth / 2024年8月16日 23時5分

三津野は急に徒労感に襲われた。自分は、今、ここで、いったいなにをしているのかと感じたのだ。自分の滑稽な姿に笑いがこみ上げてくる。





しかし、口は素直ではない。





「長友っていう人は、それであなたの子どもが自分の子どもだって知っていたの?」





「言ってない。だから知らないと思う。」





「ご亭主だった方、多額の保険金を遺して死んだ方は?」





「遺して死んだんじゃなくて、死んだら私に入ったの。そういう保険。」





「そうか、そうなのか。





それが34年前。





もうそのときにはご長男はおいくつだったの?」





「えーと、どうかな。私が結婚したのが25で最初の子が生まれたのが26のとき。あの人が死んだのが私が40のとき。」





「じゃ、14歳、中学2年生くらいだ」





「そうなる。





で、ご亭主はご長男を自分の子と思っていた?」





「そう」





「じゃ、次男の方についても同じに思っていたの?」





「そうでしょ。そうに決まってるじゃない。ふつうはそう思うでしょ」





「いくつ違い?」





「3歳」





「でも、次男の方は斉藤峰夫が実父なんだ」





「そう」





「でも、峰夫氏は子どもができない体だった」





「だから、どうしても私に子どもをつくってほしかった。だから、長友君に頼んで大阪にいって、峰夫の不妊治療をしてもらったの。」





「よりによって長友先生に、か。当時のあなたのご亭主はなにも知らないまま」





「もちろん。」





「あなたのなかの、その男性への冷酷な気持ち、無慈悲なふるまいは、初めの新婚当時のご亭主のふるまいに原因があるのかな」





「うー、どうかな。世の中はそんなふうにできているんじゃないの。私っていう女が、もともとそうできていたのかもしれない。わかんない。





みんな、たまたま与えられている場所でとり澄ました顔して生きてる。でもそれは外側から見えるところだけで、中身はわかりゃしない。旦那と抱き合っていても、心のなかでは別の男としているつもりって、どんな女にもあるんじゃないかしら」





「知らなかったなあ。人の世って恐ろしいんだね。」





三津野は大きなため息とともにつぶやいた。





「人間の業、深い深い闇」





「おやおや、滝野川不動産の中興の祖で、不動産業界の大立者がなに子どもみたいなこと」





「いやあ、子どもだよ。不動産業界では大物とかわれていたって、一個の男性としては赤ん坊同然だ。そういうものとして、今、僕はここにいる。そして英子さん、あなたと話している」





「三津野さんはご自分の子どもが確かに自分の子どもだって思っているの?」





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