「令和5年の年賀状」団塊の世代の物語(7)
Japan In-depth / 2024年8月16日 23時5分
丹呉氏をエリート中のエリートと私が呼ぶのは、開成高校から東大法学部に入り大蔵省に入った履歴だけからではない。彼は小泉純一郎総理の事務方秘書官のトップを5年半にわたって務め、その後財務次官になっている。我々の世代、団塊の世代の人間の履歴として、これ以上のものはないだろう。
もちろん、私は学生時代に知り合っているからその篤実な性格をよく知っている。したがって彼の大学卒業後の、大きく開花した人生を当然のものと思ってもいる。
その彼が、私の勝手な考えを書き連ねた本を読んで「君の書いているとおりだよ。」と言ってくれたのだ。私が一人でひそかに考えていたことが顕彰された思いがした。我ながらこうして書き連ねていても、我が人生の快事の一つである。
「自分の力で生きているのではないと、つくづく思わされます。」と書いている。
誰でも歳を重ねればそう感じるようになるのだろうか。
私はいつからそう思うようになったのだったか。
12歳、小学校を卒業するときに「不滅の栄光を求めていま飛び立つ若鳥たち」と文集に書いたのを憶えている。自分とその周囲に同級生たちについてそう感じていたのだろう。しかし周りの少年少女のほうはそんなことを考えていただろうか。
15歳、中学校を卒業するときには「金では買うことしかできない」と記した。変わった中学生だったことだろう。後に、堀江貴文さんが「金で買えないものはない」と言った。似ていて、少し違う。私なりに金の限界を理解していたのだろう。
18歳。あのときは東大受験に失敗したことが全てだった。
翌年は東大入試が中止になった。1月20日月曜日、未だ前日までの催涙ガスの臭いが鼻をつく安田講堂前に行った。まさか東大入試がなくなるとは思いもしなかった。
ところが、いま調べてみると入試の中止は前年の12月には決まっていたという。それではあの記憶はなんなのだろう。1月20日は東大が内閣の入試中止を受け入れた日のようだから、私は入試が本当になくなるとは信じられないでいたということなのだろうか。
機動隊が安田講堂を制圧するよりも前、安田講堂の屋上のスピーカーからは大音量で占拠した学生の宣伝が聞こえた。「こちらは解放放送」と自らを称していたのを憶えている。その電気代も東大が負担していたのだろう。
東大の先生の間では、あの入試を境に、戦前、戦後と呼び分けていると聞いた。
往時茫々である。
団塊の世代の物語(7)
「先生、お忙しいのはわかっているけど、夕飯をつきあってくれないかな」
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