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「令和5年の年賀状」団塊の世代の物語(7)

Japan In-depth / 2024年8月16日 23時5分

英子にとって三津野の返事はなんとも間の抜けたものだったにちがいない。性関係をもつだろうと感じていた女性のことを話しているのに頑張り屋はないだろう。それにしてもグラマーか。大木が使い三津野が受けたグラマーという単語も後期高齢者とその直前の男同士の間でいかにもでてきそうな単語だった。





三津野は、前夜の英子との逢瀬の報告をしているのだ。





オークラの久兵夷で寿司をつまみながら店においてあるシャンパンを英子が飲み、三津野はノンアルコールのオールフリーだったという。





「『違うの。そんなことじゃなくて、すてきな女、いい女だったかってきいているの』と英子さんに言われちゃってね。だから、





『どうかな。もう縁のない人、しらない人になってしまったんだもの、わかんないよ』って答えたら、英子さん、





『でも、すてきだったから性関係を持つだろうとおもったんでしょ』と来た。





僕が高校の同級生だったなんていっちゃったから、彼女からしてみると、2学年上の顔を見知った上級生になるからね。誰か知りたかったみたいだった」





「そりゃ英子さんのほうが正しい。性関係を持つだろうと思ったんだったら、魅力的な女性だと感じていたに決まっている。ところがそこをたずねると、『もう縁のない人になってしまった』じゃあ、答えてないですよ。





つまり、ごまかそうとしている。それはとりもなおさず、実は未練があるって聞こえる。少なくとも三津野さん、あなたを好きな英子さんにしてみれば、そうとしか思えない。そうじゃないですか」





大木がそう解説すると三津野は、へえそういえばそうかという顔をした。





「だってそうでしょう。





出発点は英子さんが高校1年のときに高校3年生だったあなたを好きだったことなんですよ。





だから、彼女はわざわざ私なんかにあなたを紹介してくれって頼まなきゃいけなかった」





大木は、二人の話が一段落するのを待っていた仲居の女性がノンアルコールビールを注いでくれるのに顔を向け、「あ、どうもありがとう」と礼を小声で言った。小柄な、和服が似合う女性だ。





「そうだな。そういえば英子さん、





<へえ、今でもこだわっているんだ、この人、その女に。私、妬けちゃう>っていう顔をしていたな。」





「そりゃそうでしょう。





三津野さん、最悪ですよ、言っちゃ悪いけど。





だって、目の前にいる男を好きで好きでしかたがないから、無理算段してやっと二人きりであっているのに、昔、それも自分が相手にもされなかった高校時代の話をして、その上、そのときに性関係を持ちたいと願っていた女性がいただなんて。





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