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団塊の世代の物語(12)

Japan In-depth / 2025年1月15日 23時0分

「でも、なんとかなる。」


「ああ、そこが政治だ。どんな妥協だってする。変幻自在。それが政治だ。」


「エスタブリッシュメントの話から、ずいぶん遠くへ来ちゃった。


「こめんごめん。


丹呉氏がエスタブリッシュメント中のエスタブリッシュメントっていう話だったね。」


「でも丹呉さんて、官僚よね」


「そう。官僚も官僚、そのなかで最強の財務省、金融庁を合わせもっていた昔の大蔵省に入って、財務次官になった方だ。」


「官僚って、滝野川不動産の執行役員とどう違うの?財務省のトップと滝野川不動産のトプとどちらが偉いの?」


「グッド・クエッションだね。


なんでも知りたがるお人だ。気を付けて、身を滅ぼしかねないよ。」


「あなたがいれば、ちっとも構わない」


「おやおや。


いいかい。昔のアメリカにJ.P.モーガンという人がいた。金融王として知られている人物だ。」


「知ってる。」


「そのモーガン氏が、或るとき言ったそうだ。『私は世界の誰よりの力がある。なぜなら私を辞めさせることは誰にもできないから。』


そのとおりだね。


財務次官と滝野川不動産のトップの話に戻すと、財務次官のほうが偉い。ま、偉いっていう言葉の定義にもよるけどね。財務次官は滝野川不動産が売り出すマンションの割引分譲はもちろん、優先分譲も受けることはできない。国の予算は年に100兆円を超えていてもね。でも、滝野川不動産のような上場会社は個人オーナーがいるわけじゃないから、トップにも定年がある。決まった規則というわけではなくても、言ったろう、従業員の協働組合だからなんとなく限度があるってわけだ。仲間が決める。先輩や後輩が仲間だ。」


「社外取締役は?」


「ま、半分くらいの仲間かな。いや10分の1かな。なんとなく慣例になっていることを横紙破りするような人は、はじめっから社外取締役になんかなれないからね。」


「でも、財務次官よりも財務大臣の方が偉いんでしょう?」


「そうだね。でも、大臣も財務省の役人が手伝ってくれないとなにもできないから、ま、そんなに偉くもないかな。人による。選挙っていう関門がいつも控えているしね。」


「世の中は、ジャンケン?」


「そうね。


でも、あなたの質問に軍人が出てこないところが、今の日本らしいと思うよ。


戦前なら、陸軍が一番力があるんでしょう、とある時期は言われていた。


でも、丹呉氏に戻ろう。」


英子の目はあいかわらずキラキラ輝いている。目には年齢がない。目の周囲の筋肉には年齢があるが、目の輝きは変わらない。三津野の目のまえには、12歳で水色のカーディガンを着ていた少女がいた。


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