団塊の世代の物語(12)
Japan In-depth / 2025年1月15日 23時0分
英子の下腹の下も、同じように三津野がたびたび触れたところだ。濃い。若いころからそうだったのかのたずねたことがあった。初めの見たときのことだ。そうだという答が戻ってきた。もっとこわい感じだったかもね、と英子は他人ごとのように言い足した。そこには白いものが堂々と混じっていた。「銀狐」と伊藤整が表現していたのを思いだした。
<なんだか今日はずいぶんセンチメンタルだな>
三津野は自分が哀れな気がした。滑稽だった。
英子が身体をバスタブに入れると、ザーっとお湯があふれだす。
「いやだ、なんでこんなにたくさん。変ね」
「いやいや、僕は王冠の黄金の量を測れと命じられたアルキメデスの気分だよ。黄金の量だけの湯がバスタブの外に出るんだからね」
ピンクの花柄模様のシャワーキャップをつけた頭をバスタブの縁にゆったりとのせて、英子は大きな息を吐いた。
「あー、気分いいっていう感じ?」
三津野がたずねる。
「そう。あなたと二人で湯舟につかるなんてなんていう贅沢な一瞬。束の間とはいえ、途方もない幸せなのか、っていう感じ」
「素直だね。でも、束の間がついてまわる。」
英子は答えない。
「あなたも脚を伸ばして」
「ありがとう」
「二人横に並んで入れるバスタブにして、ほんとうに良かった。」
「へえ、これ特注なの」
「ええ、そう。このマンションの部屋は、なにもかも特注よ。あなたと二人でいるための場所ですもの」
「うれしいね。」
英子の巨大な胸がお湯に浮いている。ピンクの乳首が水面すれすれにただよっていた。
女性の胸をいったいどれほど見てきたことか。数にすれば女性の頭数の2倍になる。
小さくても大きくても、その女性への執着が胸への思いにつながっている。
「特に重要じゃないが、乳房・・・」という小説の主人公の呟きが脈絡もなく浮かんだ。大江健三郎の『個人的な体験』(文庫130頁)だった。三津野が16歳のときに読んだのだ。紺色の布の装丁だった。そういえばあの小説のなかで火見子の乳房は大きかったろうか。未だ20代だった大江氏はそういうことには気が回っていなかったろうか。
「あっち向いて」
といって、英子の背中を抱えこんだ。肩甲骨のあたりに唇をつける。「肉付きがよいので堆高く盛り上がっている幸子の背中から肩の、濡れた肌」という『細雪』冒頭の場面を思う。少し肩の皮膚を齧る真似をしてみせる。甘噛みだ。そして英子の頭からシャワーキャップを外して髪に鼻をくっつけた。香る。
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