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団塊の世代の物語(12)

Japan In-depth / 2025年1月15日 23時0分

「知っている。尖塔部の細長い楔の形をした炎のようで、それが七段、日本のぼんぼりみたいに、でもくっきりと輝いていて、なんどみてもとてもうっとりする。高層建築物だっていう気がしない。」


「そうだよ。じゃ話が早いや。


僕は42歳で丸山社長のしたで海外事業部長として仕えていた。


「仕えている、っていう言い方をするのね、日本の大きな組織の人って」


「そう。個人に仕えているわけじゃないのに、そう表現して個人的な、私的な忠誠心を捧げている雰囲気を作るのさ。」


「変なの」


「変じゃないよ。それで必死なんだから」


「変よ、やっぱり。上司だなんて偶然のことなのに」


「そのとおりさ。だから敢えて巧んで形をつくりだすのさ」


「ふーん、そんなものなのね、巨大企業の世界って」


「役人の世界、政治家の世界はもっとそうだよ。初めに公私混同ありきさ」


「で、クライスラー・ビルってことになった、してもらった。ウィリアム・ヴァン・アレンという建築家の設計で、あなたの表現したとおり、なんど見てもうっとりするデザインだ。


嬉しかった。地所がロックフェラーセンターを買っていたから、なにか同じくらいのものを、と社長も願っていた。


実は、初めはエンパイアステートビルディングを買え、っていう命令だったんだ。アメリカではなんでも売り物だからね。


可能だった。金はいくらでも出す、って社長が言ってたしね。日本の都市銀行がバックにいて、資金の調達は簡単だった。今じゃあ信じられないような話だが、そんな時代だったんだな。あ、あなたは説明抜きでわかるんだ。団塊の世代の人だものね、わかるわけだ。」


「あの楔型の七段、ぼんぼりみたい?そうね、広尾にぼんぼりみたいな建物があるけど、イメージ違うなあ。でも、設計者の心が生きているって感じ、あるある。」


英子が口をはさんだ


「あ、そう。」


三津野は話を続けたい一心だ。


「でね、僕は社長にこう進言したんだ。


「社長、エンパイアステートビルをってお気持ちはよおくわかります。でも、エンパイアステートってニューヨーク州のことですよ。まずいですよ。三菱地所がロックフェラーセンターを買って、どれほどアメリカ国民、なかでもニューヨーク市民に非難されたかご存じでしょう。まるで真珠湾の不意打ち攻撃みたいだってアメリカのメディアに言われて、非難ごうごうでした。


「社長、諦めきれなかったんだな。でも、ニューヨーク一の高さのビルって、エンパイヤステートビルじゃない。もうワールドトレードセンターに抜かれて久しかった。それなのに、なぜ。


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