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年金制度改正案、国庫への悪影響に懸念の声(メキシコ)

ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年2月14日 1時0分

メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が2月5日に国会に提出した一連の憲法改正案(2024年2月7日記事参照)に含まれる正規労働者の年金制度改革について、成立した場合の国庫への悪影響を懸念する声が高まっている。AMLO大統領は、1997年(民間正規労働者)や2007年(公務員)の年金制度の確定拠出型個人年金への移行に基づき、年金の所得代替率が40%程度にとどまることを不当で非人道的と評価し、以前のように退職時給与の100%を保証する体制に戻すことを狙っている。

ただし、実際の憲法改正案では、全ての正規労働者に退職時給与の100%を保証する内容にはなっておらず、65歳以上(注1)を受給開始の条件とし、社会保険庁(IMSS)加入正規労働者の平均賃金の額(注2)が保証の上限となり、個人年金口座への拠出金の運用結果に基づく生涯年金額がそれを下回る場合のみ、政府が差額を補填(ほてん)する内容になっている。なお、民間正規労働者が生涯年金を受け取るためには、最低850週(注3)のIMSSへの加入が必要だが、100%保証のための最低加入期間については明らかになっていない。

財源確保に課題、将来的な財政悪化を免れないという指摘も

憲法改正案では年金補填財源として、大蔵公債省が福祉年金基金を創設することが定められている(改正令付則第1条、同第3条)。初期の財源として646億1,900万ペソ(約5,622億円、1ペソ=約8.7円)を想定しているが、政府が犯罪組織などから押収した財産を運用する基金(INDEP)のネット資産の75%、国家農牧開発銀行の清算金、国家観光促進基金(Fonatur)が所有する土地の売却収益、公的機関の国税庁(SAT)、公務員社会保険庁(ISSSTE)などへの負債返済金、受給手続きを行わずに10年以上個人年金口座に放置された資金などを充てるとしている。2年目以降に必要となる追加資金については、2023年10月末に公布された連邦司法府組織法改正に基づき、大蔵公債省が没収する司法府の複数の信託に蓄積された資金、今回の一連の憲法改正で廃止する独立自治規制機関の予算、軍営企業(注4)の収益の25%などを充てるとしている。

年金制度改革の理念について否定する意見は少なく、野党からも議論には応じるという姿勢が示されている。しかし、現時点の憲法改正案では財源確保の実現性に乏しく、財政への悪影響について明確な分析がなされていないため、露骨な選挙対策だという批判もある。司法府の信託廃止は裁判所の判断で差し止めとなっているほか、独立自治規制機関廃止に向けた憲法改正案は実現可能性が乏しいこと、軍営企業の大半が赤字経営であることなどから、資金確保手段は絵に描いた餅だと批判する識者が多い。メキシコ競争力研究所(IMCO)によると、65歳以上の人口は2024年の1,140万人から2050年には2,490万人に倍増すると見込まれ、AMLO政権下で拡大した全ての高齢者への一律年金の支給も相まって、政府による年金負担が今後も急速に拡大を続けることが懸念されている。

(注1)現在の法体系では60歳以上で退職して年金を受給することも可能だが、この場合は現行法体系に基づく最低保証額のみが保証される。

(注2)2024年は1万6,777ペソ(約14万6,000円、1ペソ=約8.7円)。

(注3)2024年時点。毎年25週増加し、2031年に1,000週となる(2020年12月22日記事参照)。

(注4)国防省(SEDENA)がマジョリティー出資し、フェリペ・アンヘレス国際空港(AIFA)、マヤ観光鉄道、メヒカーナ航空、トゥルム国際空港などオルメカ・マヤ・メヒカ空港・鉄道・付帯関連サービス・グループ(GAFSACOMM)が統括する企業など。また、各港の港湾管理公社(ASIPONA)やテワンテペック地峡開発公社(CIIT)などは海軍省(SEMAR)の傘下となっている。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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