北朝鮮・張成沢はなぜ即日処刑? 金正恩を怒らせた「10年前の権力闘争」
TABLO / 2013年12月13日 18時20分
北朝鮮のトップ・金正恩(キム・ジョンウン)第一書記の叔父で、実質ナンバー2の立場にいた張成沢(チャン・ソンテク)が処刑されたことが、北朝鮮の国営メディアを通じて報じられた。朝鮮中央通信や全国紙「労働新聞」は、張成沢の逮捕時の様子から"罪状"そして、処刑にいたるまでを詳細に報じた。
党や国の幹部の失脚や処刑について、北朝鮮メディアが詳細に報じるのは珍しいことだ。この手のニュースは周辺国の情報当局の話、あるいは脱北者の証言をソースに日韓メディアが報じることがほとんどだった。今回のように大きく報じられるのは、金正日時代にもなかったことだ。
張成沢は金正恩の父である金正日(キム・ジョンイル)の妹・金慶喜(キム・キョンヒ)の夫だ。そのため日韓のメディアの多くが「夫婦仲の悪化」を失脚の理由の一つに挙げていた。だが、これは処刑の直接的な理由としては弱い。
じつは張成沢は過去に2度、失脚したことがある。最初の失脚は1978年。贅沢なパーティを開いたことの戒めとして、鉄工所で2年間、働かされた。
2度目は2003年。張成沢は元々、金正恩の異母兄・金正男(キム・ジョンナム、2001年に日本に入国し話題になった人物)を金正日の後継者にするために動いていた。そのため、自分の息子を後継者にと望んでいた金正恩の母・高英姫一派と権力闘争の末、敗北したのだ。
しかし、張成沢は不死鳥のように返り咲いて党の要職に就き、最終的には金正恩の後見人的な役割も果たしてきた。張が復帰できたのは、金慶喜の力に拠るところが大きいとされてきた。金正日も妹の頼みには耳を傾けたのだろう。今回の一連の動きからは、むしろ、金慶喜も甥の金正恩には強くものを言えない立場にあることが推測される。
当初、張成沢の失脚は、崔竜海(チェ・リョンヘ)軍総政治局長との権力闘争に敗れたのが原因だとされていた。韓国メディアによると、張成沢が金正恩の現地視察に同行した回数は12年の108回から翌年には56回と減り、一方の崔竜海は、12年の88回から13年には142回と増えている。
しかしこれも一側面だろう。じつは崔竜海は元は張成沢の右腕だったとされていた。かつて崔も失脚したことがあるのだが、それを要職に復帰させたのが張成沢なのだ。つまり崔竜海は風向きが変わったことを直観して、立場を変えたに過ぎないのだろう。
金正恩の後見人としての役割を果たしていた張成沢が、絶大な権力を手にしたことは想像に難くない。一部の北朝鮮専門家のあいだでは、「実権はむしろ張成沢が握っているのでは」と言われていたほどだ。張成沢は金正恩の現地指導に同行する際も、かしこまって話を聞くほかの幹部たちとは違って、むしろ金正恩を監視するかのような表情でいることが多かった。
父を亡くしたばかりの若き金正恩にとって、張成沢は心強い存在だったのだろう。だからこそ張成沢は、金正日政権時よりも高いポストに就き「ナンバー2」とまで言われるようになったのだ。しかし、金正恩も時間が経つにつれ自信がついてくると、その存在がわずらわしくなった。そのうえ、かつて自分ではなく異母兄をバックアップしていた人物でもある。金正恩に頼られた張成沢は、実際に大いに権勢をふるっていたのだろう。それを口実に彼は逮捕され、処刑までされてしまったのだ。
金正日が政権を握った際も、多くの人が失脚している。しかし叔父の金英柱(金日成の弟)と、異母弟の金平一の命を絶つことはなかった。こういったことを鑑みると、金正恩は父親以上の恐怖政治を行うことが予想される。
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Written by 李ソヨン
Photo by 後継者 金正恩
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