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ガソリン車禁止「なぜ曖昧?」 日本はなぜ新車販売終了を「遅くとも~」と発表したのか

くるまのニュース / 2021年1月9日 14時10分

2020年12月に入り、日本でも「脱ガソリン車」に向けた動きが見られています。さまざまな政治家が発言をするなか、今後の目標に関する発言として「遅くとも~」といった、広い解釈ができる中途半端な指針も散見されます。なぜ、はっきりと年限を区切らない表現にとどめているのでしょうか。

■結局「ガソリン車禁止」の年限は示されず

 2020年12月に入って、「日本でも2030年代、ガソリン車やディーゼル車の新車販売が禁止になる」という政府が掲げる電動化戦略が、テレビやインターネットで連日のように報道されています。

 この話について、自動車メーカー、自動車部品メーカー、自動車ディーラー、中古車販売店、ガソリンスタンド、修理工場、そしてユーザーなどクルマに関係する多くの人がそれぞれの立場で興味を持っていることは間違いありません。

 当然ですが、最大の関心事は、この規制はいつからの実施で、具体的にどのような内容なのかという点です。

 ところが、経済産業省が2020年12月25日に正式発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」のなかでは、「遅くとも2030年代半ばまでに、乗用車新車販売で電動車100%を実現する」という表現にとどめました。商用車については2021年夏までに検討を進めるとしています。

 併記された、自動車・蓄電池産業の成長戦略工程表でも、2021年からの「電動化の推進・車の使い方の変革」という項目では、ひとつの例として「燃費規制の活用」を挙げただけ。

 燃費規制の具体的な内容は示されず、なんとなく中途半端な印象があります。なぜ、そうなってしまったのでしょうか。

 年限については、12月初旬に最初の報道が出た頃、「2030年前半」とされ、すぐに「2030年中頃」という報道に変わりました。

 また、小池百合子都知事が東京の方針として「2030年を目指す」といったり、小泉進次郎環境大臣は「2035年など年限を定めることが望ましい」と発言もありました。

 12月10日に開催された、経済産業省の有識者会議でも、参加者から「年限を明記するべき」という意見が出たにもかかわらず、最終的には「遅くとも2030年代半ば」という曖昧な表現になってしまったのです。

 海外では、イギリスの2030年、米・カリフォルニア州の2035年といった、明確な年限を提示した方針があるのに、日本は「遅くとも…」といった広い解釈ができるような表現にとどめたかたちです。

「遅くとも2030年代半ば」という表現に落ち着いたのは、自動車メーカー側からの言い分が影響したことは間違いありません。

 自動車メーカーの業界団体である日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ社長)が記者会見で、大手メディアで相次ぐ「電動車=EV(電気自動車)」という類の報道に対して懸念と修正を求めました。

 さらに、政府を含めて日本社会全体に対して、自動車産業の実態を再認識した上で冷静に、クルマの電動化を議論するべきだと強調したのです。

 このような異例の会見となった背景には、電動化技術とESG投資のミスマッチがあると思います。

 まず、電動化技術についてですが、日本の自動車産業に関わる多くの技術者が、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV、FCV(燃料電池車)という段階的に電動化が進むという将来構想を描き、それに従って研究開発を進めてきました。

 現状で、日本は新車に占めるハイブリッド車の比率が3割を超えており、海外での数パーセント程度と比べて大きくリードしています。

 その上で、個社として数千億円単位の開発資金を投じることが難しいと考えるメーカーは、販売国の社会情勢を踏まえて、電動化戦略の協業体制を結ぶようになりました。例えば、インドでのトヨタとスズキ、またアメリカでのホンダとGMなどです。

 クルマの電動化については、充電インフラなど国や地域によって社会環境に大きな違いがあり、またクルマ本体では車体構造そのものがガソリン車などと違うなど、自動車メーカーとしては一度決めた事業方針を短期間で変えるという発想がありません。

■クルマの電動化実現には社会システムの見直しが不可欠

 一方で、2010年代後半から世界中で一気に広まったのが、ESG投資です。

 ESG投資とは、これまでのように財務内容だけではなく、エンバイロンメント(環境)、ソーシャル(社会性)、ガバナンス(企業としての統治)にも重点を置いた投資を指します。

 企業としては、ESG投資への配慮が株価に大きく反映されるようになってきました。

 今回発表された、国のグリーン成長戦略のなかでも、ESG投資は世界で3000兆円規模あり、日本でもその10分の1程度の資金が大きく動く可能性があるとの認識を示しています。

日産の量産電気自動車「リーフ」日産の量産電気自動車「リーフ」

 世界的なESG投資を日本経済に取り込むため、クルマの電動化を加速させるという思惑が見て取れます。

 こうした、中長期に渡る電動化の研究開発と、比較的短期での利益確保も念頭に置くESG投資というふたつの分野が併存している状況を、国内で自動車産業に関わる多くの人、そして多くのユーザーが認識していないことが、日本の大きな課題だと思います。

 実際、ここ数か月間で開催された新車試乗会など各種の会合やイベント、またオンライン記者会見などで自動車メーカーの開発、営業、広報などの関係者と話す際、ESG投資という言葉自体を知らない人がまだかなりいます。

 一方で、各自動車メーカーの役員など幹部と意見交換すると、当然彼らはESG投資の重要性を肌で感じ取っているものの、「投資のペースが少々過剰で、先行きが見えない」という不安な気持ちを口にする人も少なくありません。

 このような日本の自動車産業界の現状を鑑みて、政府としては、まずはグリーン成長戦略としての概要を打ち出しました。

 今後、日本経済の主力産業である自動車の電動化については、政府は関係各位とのさらに踏み込んだ議論を進めて、日本の進むべき道を見極めていくことになるでしょう。

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