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「簡単にはいかない…魔物は夜中にやってくる?」 トヨタ/スバルの富士24時間! 長丁場の末に見えたものは?

くるまのニュース / 2022年6月19日 19時10分

2022年6月3日-5日に「スーパー耐久シリーズ2022 第2戦NAPAC富士SUPERTEC24時間レース」が開催されました。カーボンニュートラル燃料で参戦した「28号車 ORC ROOKIE GR86 CNF Concept」と「61号車 Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」、24時間のなかでどのようなドラマが生まれたのでしょうか。

■決勝の24時間レース…順調に思えたが…魔物は夜中にやってくるのか?

「スーパー耐久シリーズ2022(以下、S耐)」にカーボンニュートラル燃料を使った「GR86」「SUBARU BRZ」で参戦しているトヨタとスバル。6月3日から5日にかけ開催された「第2戦 NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レース」は24時間の耐久レースですが、2台はどのように戦ったのでしょうか。

 6月3日に行われた予選を終えたGR86 CNFコンセプトとBRZ CNFコンセプトの2台は、翌4日から5日にかけておこなわれた決勝の24時間レースに臨みました。

 グリッド位置が中盤のGR86 CNFコンセプトに対して、BRZ CNFコンセプトは最後尾スタートとかなり離れていましたが、スバルの本井雅人監督は「ここからオーバーテイクショーをお見せしますよ!!」と余裕の表情です。

 15時にスタート、どちらも混乱に巻き込まれることなく順調に走り出します。

 本井監督の公言通りBRZ CNFコンセプトはオーバーテイクを繰り返し、気が付けばGR86の背後まで迫ります。

 その後2台はほぼ同タイムで走行、ピットインのタイミングなどで順位を入れ替えながらも、同一周回でラップを重ねていきました。

 途中、GR86 CNFコンセプトに「タイヤから振動が出ている」という無線が入り、ピットに緊張が走ったものの、タイヤ交換時にチェックすると大きなタイヤカスの付着が原因であることが判明、機械的なトラブルではなかったようです。

 15時のスタートから日が変わった深夜1時くらいまでは、どちらも順調すぎるほど順調で「このまま、何もトラブルが起きずに最終ラップまで行くのでは?」と思いましたが、やはり耐久レースの魔物は潜んでいました。

今回の富士24時間レースでは建設中のホテルの窓が特別に点灯する演出があった今回の富士24時間レースでは建設中のホテルの窓が特別に点灯する演出があった

 それは丑三つ時の深夜2時。

 あまりに順調なので一緒に取材をしていたK副編集長と交代で仮眠をとろうと、取材用に借りていた水素グランエースを停めている駐車場に向かっていました。

 そのとき、場内放送で「GR86 CNFコンセプトがコース上にストップ!!」というアナウンスが……。時計を見ると午前2時20分でした。

 実は2021年の富士24時間レースでも仮眠を取ろうと思った矢先、水素カローラにトラブルが起きましたが、今回もほぼ同じタイミングです。耐久レースの神様から「寝ようなんて百年早い!!」といわれたようでした。

 慌ててピットに戻ってみると、クルマは最終コーナー付近に止まっているといいます。ドライバーの鵜飼龍太選手からの無線では「ギアは入っているが、アクセルを踏んでも駆動が掛からない。ゆっくり走ってピットに戻ろうと思ったが、壊れた部品がギアのどこかに噛んでしまい止まってしまった」とのことでした。

 マシンはBパドックにあるリペアエリアに運ばれ、そしてチームはその場でトランスミッションの交換をすると判断しました。

 リペアエリアはピットと違って整備環境が整っていないうえに、マシンに触れることのできる人数にも制限があります。さらにGR86 CNFコンセプトはエンジンの搭載位置がノーマル仕様車のそれとは異なります。

 それでもメカニックの迅速な作業により、約1時間半で修理は終了。その後、マシンは一旦ピットに戻って各部のチェックをおこない、午前4時40分にコースへ復帰しました。

 そんなとき、ルーキーレーシングのピットにスバルの本井監督が、「お疲れさまでした」と、そっと栄養ドリンクを手渡しに……。

 ほんの一瞬の出来事でしたが、そのやり取りを見ていた筆者は、「ライバルだけど、いっしょに戦っているんだな」と、何だか嬉しくなってしまいました。

 そんな話をモリゾウ選手にすると、「ちゃんとお礼を言わないと」と即座にスバルのピットに向かい、「一緒に頑張りましょう」と声をかけていました。これこそが今のトヨタとスバルの関係性です。

Team SDA Engineeringに訪れたORC ROOKIE Racingのモリゾウ選手Team SDA Engineeringに訪れたORC ROOKIE Racingのモリゾウ選手

 やっとひと息つける……と思った矢先、午前5時30分に今度はBRZ CNFコンセプトがトラブルで緊急ピットイン。こちらもミッショントラブルです。

 ドライブしていた鎌田選手によると「シフトが抜けなくなった」とのこと。チームはトランスミッション交換と判断し作業しますが、症状は回復しません。

 やがてトラブルの原因はリンケージ部分だったと判明、約1時間20分の作業を終えて午前6時50分にコースへと復帰しました。

 実はこのとき、リアウイングの取り付けに問題があったため、時間内の修復が無理との判断からこれを外すことになります。シェイクダウンからずっとウイングを装着していたため、ドライバーからは「ウイングの効果がよく解った」との話も聞けました。

 その後は、2台共に「あのトラブルは何だったのか?」と思うくらい順調に走行を続けます。

■トランスミッションは見直しへ! 24時間走りきったトヨタ/スバルの想いとは

 もったいないのは、カーボンニュートラル燃料の開発をしているにも関わらず、それとは関係ない部分のトラブル、それも初代のころからこの2台のアキレス腱といわれていたトランスミッションのトラブルで遅れを取ってしまったという点です。この現実は、メーカーとして受け止める必要があると感じました。

 同じトランスミッションを使っているほかのチームに、トラブルは起きていないのでしょうか。

 この時点でST-4クラスにおいて、ぶっちぎりでトップを走っていたTOM’S SPIRITのエンジニアに話を聞くと「ノーマルのトランスミッションですが、ナラシは慎重にやっています。負荷をかけずに各部を馴染ませるのがポイントかな……」と教えてくれました。

 しかし、そんなトムススピリットもゴールまであと2時間のタイミングでトランスミッショントラブルが発生、4速が壊れたとのことでトランスミッション交換となります。ただ、初代での参戦時に何度も交換作業を経験してきたからか、最小限のロスで作業を完了させ、トップのままコースに戻すことができました。

 さらにゴール直前、ST-4クラスにGR86で参戦した浅野レーシングサービスもトランスミッションのトラブルでストップ……。

 つまり今回、参戦した多くのGR86/SUBARU BRZがトランスミッショントラブルに見舞われたわけです。

 このような状況にGRカンパニーの佐藤恒治プレジデントとGR車両開発部の高橋智也部長は、豊田社長から「早急に根本的な見直しをおこなうこと」といわれたそうです。

 そして15時、GR86 CNFコンセプトとBRZ CNFコンセプトは共にゴールを迎えました。

 結果を見ると、BRZ CNFコンセプトは624周を走ってST-Qクラス3位。GR86 CFNコンセプトは609周を走ってST-Qクラス4位でした。

 ちなみにTOM’S SPIRITは652周走ってST-4クラスでは優勝を飾っています。

 つまり、この3台のポテンシャルは拮抗していたことになります(皮肉にもトランスミッショントラブルも含めて)。

 ゴール後、各々の代表にレースの総評や今後の展望を聞きました。まずは車両の開発責任者であるGR車両開発部の藤原裕也氏です。

「まずはチームの皆さん、支えてくれたエンジニアに感謝です。

 それと同時に同じくらい『申し訳ない』という想いもありました。今回はやはり事前に弱点だと思ったところが壊れました。

 つまり24時間は博打ではなく、本当に走り切れる自信を持って走らなければダメだということで、改めてそれを痛感しました。

 ここから先はショートスパンでレースが続きます。まずは現状を見つめ直して弱点を潰していくことと同時に、新しい取り組みも中長期的に進めていきたいと思っています。

 今後も隠す所は隠し、競う所は競っていきます。挑戦はまだまだ続きますので、よろしくお願いします!!」

 続いて、スバルの本井雅人監督です。

「色々ありましたが、チーム皆でつかみ取った完走だと思っています。

 ただ、24時間は苦しく、難しいです。途中まで順調でしたが、そう簡単にはいきませんね。入念に準備をしてきたつもりですが、もっとしておかないとダメなんだな……と。

 100%すべての部品に対して24時間の検証をしていたわけではないので、今回のトラブルは出るべくして出たものです。

 ただ、嬉しかったのは若いエンジニアがすごく喜んでくれたこと、ほかにはない感激を感じてくれたことは有意義だったなと思っています。

 次は距離こそ短いですが、準備期間は短いので今回の反省を活かしながら進めていきます。

 万全の体制で走り切り『やったぜ!!』といえるような結果を残したいですね」

最後は全員で表彰式に参加したORC ROOKIE RacingとTeam SDA Engineeringのドライバー達最後は全員で表彰式に参加したORC ROOKIE RacingとTeam SDA Engineeringのドライバー達

 このように、どちらも「今回の結果に満足しているか?」というと決してそうではないようです。

 ただ、あくまでもここは通過点であり、本当のゴールはこの先の未来です。

 今回はトランスミッションの問題が浮き彫りになってしまいましたが、どちらもエンジンに関してはトラブルシュートで停止していた時間を除く約22時間を、大きな問題もなく走り切ったわけです。

 つまり、カーボンニュートラル燃料に関して多くのデータやノウハウが蓄積されたわけで、今後に活きるはずです。

 今回の24時間は正直、一筋縄ではいかなかった部分も多々ありますが、ここでの経験は両社にとって、きっと意義あるものだったことでしょう。

 トヨタとスバル、時に仲間であり時にライバルの2社が、今後もガチで戦いながら開発を進めていく姿を、我々も見逃すことなく追いかけていきたいと思っています。

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