75歳の女性が国立大大学院で博士号 「好きなことを極める」5年半の超大作論文とは
京都新聞 / 2024年3月31日 17時0分
京都工芸繊維大(京都市左京区)で今春、75歳の女性が大学院の工芸科学研究科博士後期課程(デザイン学専攻)を修了、博士号を取得した。江戸時代初期の建築物をテーマにした研究論文を5年半かけてまとめた。「好きなことを極めたい、という思いでここまで続けられた」と感慨深げに学位授与式に臨んだ。
佐藤悦子さん=神戸市=は、京都・西陣で1930(昭和5)年建築の京町家を利用した宿の経営に夫妻で乗り出し、自ら改装の設計に関わったことがきっかけで、建築物や庭の造形に凝縮された日本文化に関心を高めた。
「子や孫の世話の手が離れ、これからは自分のために時間を使おう」と、還暦を過ぎてキャンパスに飛び込むことを決意。2012年、京都芸術大(左京区)に入学。同大学の大学院修士課程を修了した後、18年10月から京都工繊大博士後期課程で研究してきた。
博士論文は、戦乱を終えて優雅な文化が花開いた江戸時代初期に京都の社寺や庭園に建てられた「草庵」には、共通して畳敷きの近くに「かまど」が設けられている点に着目。その背景に、石清水八幡宮(八幡市)の社僧で文芸の多才さから「文人僧」と呼ばれる松花堂昭乗が大きな影響をおよぼしたとの見方を、大名で茶や建築に才のあった小堀遠州ら文化人との交友関係をたどってまとめた。
自宅のある神戸から府立京都学・歴彩館(左京区)などに足しげく通い、文献や手紙などの資料を探した。江戸期の古文書を調べるのは初めての経験で、約4メートルの巻物などを前に「気持ちが折れそうになった」というが、解読などで協力してくれる友人らの縁にも恵まれたという。
「京町家の素晴らしさはどこから来ているのか、という興味が出発点だった」。指導教員から「博士号を取ってからが研究のスタート」と励まされ、「今後は京町家に至るまでの変遷を探りたい」と意欲を新たにしている。
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