勇者シリーズ『マイトガイン』放送から30年 従来作からの「路線変更」が画期的だった!
マグミクス / 2023年1月30日 6時10分
■これまでになかった仕掛けが『勇者シリーズ』の分岐点となった
1月30日は1993年にTVアニメ『勇者特急マイトガイン』が放送を開始した日です。あれから40年の時が経ちました。『勇者シリーズ』のなかでも特に人気の高い本作の魅力について振り返ってみましょう。
『勇者シリーズ』の第4作目にあたる本作は、それまでのシリーズとは違った点がいくつかありました。おそらく、その要因はそれまでのシリーズ3作で監督を務めていた谷田部勝義さんから、新たに高松信司さんへと監督をバトンタッチしたことが理由だと考えられます。
それまでの勇者シリーズでは、宇宙人や超古代の意志が現在の車や機械などと融合して、「勇者」と呼ばれるロボットのような機械生命体になっていました。しかし、本作では「超AI」という人間が作ったシステムにより生み出された、自分の意志を持ったロボットが「勇者」と呼ばれる存在として活躍します。
この点がそれまでの作品と大きく違う点のひとつで、以降の作品でよりバラエティに富んだ「勇者」を生み出すことのきっかけになりました。思えば原点である『トランスフォーマー』から続いたロボット生命体という概念から脱却したことが、さらなる作品の進化へと続くことになったわけです。
これによって主人公の立ち位置も大きく変わりました。それまでは勇者と心を通わせる少年というポジションが基本でしたが、本作では旋風寺舞人という往年のロボットアニメらしい熱血漢が設定されます(『太陽の勇者ファイバード』では主人公は火鳥勇太郎/ファイバードですが、男の子のポジションとして天野ケンタがいました)。
しかし、バディ関係という点では、舞人と勇者ロボ・ガインは従来のフォーマット通りです。大胆な変革でしたが、パターンは踏襲されていると言えるでしょう。
このようにキャラ設定も秀逸で、主人公・舞人と勇者ロボ・ガインをあわせて、タイトルにもある本作の主人公ロボ「マイトガイン」となりますが、その語源は1960年代の日活映画スターだった小林旭の愛称「マイト・ガイ」から由来しています。
他にも登場するレギュラーキャラのほとんどが、この時代の映画スター由来の名前になっており、本作の目指した方向性がこういった往年の無国籍活劇やヒーローものの影響下にありました。当時のアニメファンの年齢層では、日活映画の黄金時代を知る人は少なく、逆に新鮮に受け取られたオマージュだったと思います。
このキャラクターをデザインしたのが、味方側が石田敦子さん、敵側がオグロアキラさんでした。特に初のキャラクターデザイン担当だった石田さんは本作でブレイクし、アニメ雑誌でも特集を組まれるようになるなど、有名アニメーターとしての地位を確立します。
■往年のロボットアニメに回帰した数々の仕掛け
「ブラックマイトガイン」という偽者ロボも登場。画像は「SMP [SHOKUGAN MODELING PROJECT]勇者特急マイトガイン ブラックマイトガイン」(バンダイ)
本作では列車が発達したという独特な世界観となっています。これはスポンサーからの意向で、過去の作品でも子供に人気の高かった新幹線をはじめとする列車をメインアイテムにすることが決まっていたからでした。このスポンサーの意向に沿った世界観を構築したことが、本作独自の雰囲気作りにも影響したわけです。
前述したように、それまでと異なる勇者と少年という関係もあって、本作では『勇者シリーズ』で唯一、操縦するロボットになりました(後年の『勇者王ガオガイガー』は融合とされる)。そのため、往年のロボットアニメのような形の作品となります。
もともと『勇者シリーズ』は『機動戦士ガンダム』以降に主流となったリアル調のロボットアニメと違い、必殺技の名前を叫ぶと言った往年のロボットアニメの形式で製作されていました。本作はここへさらに合体後の「名乗り」といった形式美を取り入れています。
「銀の翼に希望(のぞみ)を乗せて灯せ平和の青信号!勇者特急マイトガイン!定刻通りに只今到着!」という決めセリフは、本作を象徴する場面となりました。さらに合体シーンには専用の挿入歌を用意するなど、テンプレートであるがゆえの魅力あふれる戦闘シーンを演出します。
歌と言えば、オープニング主題歌「嵐の勇者(ヒーロー)」もロボットアニメらしいノリのいい曲で、本作の魅力を支えていた名曲でした。逆にエンディング曲は前期、後期共に珍しい悪側の曲となっています。
この悪側もそれまでの作品ではあまりなかった、複数の敵が存在する世界観です。それぞれの組織が独自の目的で行う悪事を、舞人が解決するというのが当初の物語の流れでした。それが中盤以降、より大きな組織により他の組織が解散や吸収されていきます。
それがやがて巨大な悪となって舞人の前に立ちはだかる展開は予定されていたものでしたが、その正体は、本来の予定では高次元から来た存在でした。しかし、それではわかりづらいとの判断から放送された存在へと変わったそうです。
実は当初予定では『勇者シリーズ』は第3作で終了し、『機動戦士ガンダム』シリーズへとシフトするというプランもありました。しかし、いくつかの偶然が重なり『勇者シリーズ』の存続が決まり、本作が放送される方向になります。
本作はアニメファンからの人気も高かったのですが、それ以上に前年よりも玩具売り上げが好調になったことで、『勇者シリーズ』の成績をV字回復させることとなりました。その人気の高さは『勇者シリーズ』のランキングで常に上位にいることからも証明されています。
ちなみに本作の舞台は昭和125年、西暦で言えば2050年。もしも27年後にまだファンの熱があったのならば、生誕記念イベントがあるかもしれませんね。
(加々美利治)
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