機動戦士ガンダム28話「大西洋、血に染めて」は、大人になっても見るべき理由が凝縮!
マグミクス / 2021年10月13日 11時50分
■海上での死闘で起こった悲劇
42年前の今日、1979年10月13日は『機動戦士ガンダム』第28話「大西洋、地に染めて」が放送された日です。『ガンダム』を見ていた方ならば、カイ・シデンとともにガンペリーで出撃したミハル・ラトキエが大西洋に散華した話といえばすぐに思い出せるでしょう。
海という水の壁のなかを自在に移動し、タイミングを見計らって次々にミサイルを撃ち込んでくるモビルアーマー・グラブロと2機のズゴックは、ミサイル以外の有効な対海中攻撃装備を持たないホワイトベースにとって極めて危険な相手でした。ミサイル直撃のたびにクルーが吹き飛び戦死していく状況のなか、アムロ・レイのガンダムは海中に飛び込み、グラブロと対峙します。
セイラはGファイター、ハヤトがコアファイターで出撃しズゴックと交戦、1機を撃墜しますが、すぐにセイラは被弾し着水、ハヤトも弾薬を使い切って撤収を余儀なくされます。思えば当時のロボットアニメでは、エネルギー切れの描写は多いものの弾切れを明確に描写することは少なく、『ガンダム』がリアルな世界観のもとに紡ぎあげられていることを示す表現だったように思えます。
そしてカイはガンペリーでミハルとともに出撃し、ミハルの命と引き換えに残るズゴックを撃墜。残ったグラブロはアムロが仕留め、かろうじて窮地を脱する……というストーリーでした。
この話でしばしば挙げられるのが、ミハルを失ったことによるカイの成長です。カイはベルファストで出会ったミハルがホワイトベースに潜入したスパイであることに気付きながらも、アムロ以外に知らせることなくかばい続けますが、結果的にそれがミハルの出撃と死につながったのが皮肉ではあります。
もしカイがミハルの存在をブライトに知らせていたらどうなったのか? 漁業組合の航空機搭乗員に化けて潜入したフラナガン・ブーンは捕らえられ、ホワイトベースへの攻撃は避けられたかもしれません。もしくは合流済みのシャア・アズナブルがグラブロかシャア専用ズゴックで出撃し、ホワイトベースを撃沈していたかもしれません。
■子供のころは「大西洋、地に染めて」の意味を理解できていたのか?
カイ・シデンを主人公にした外伝マンガ『機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー -カイ・シデンのメモリーより-』第2巻(KADOKAWA)
しかしながら、『機動戦士ガンダム』をリアルタイムで視聴していた当時の子供たちは、「大西洋、地に染めて」のストーリー理解できていたのでしょうか。少なくとも、筆者はよく分かっていなかったように思えます。
まだ小学生になったばかりだったので、まずスパイという存在が何なのか分かりません。「情報」という言葉の意味も、カイがミハルをかばう理由も分かりません。ミハルがなぜコクピットの外に出たのか、なんで落ちてしまったのかも分かりません。ミサイルの爆風で吹き飛んだのに気づいたのは、だいぶ後になってからでした。
それでも『ガンダム』はものすごく面白く、再放送を毎日楽しみにしていたのです。子供のころの筆者にとってはまずガンダムの活躍が大事で、それ以外のことはあまり目に入っていなかったのでしょう。ガンダムのビームライフルが水中で威力が出ずにアムロが焦る描写に手に汗握り、ガンダムがグラブロに捕らえられ振り回されるシーンに驚愕し、逆転勝利に歓喜していたはずです。
そこから成長し、見返すたびに少しずつストーリーと言葉を理解できるようになり、ミハルの死がカイの成長をもたらしたことにも気づくようになりました。
ミサイルが着弾するたびに戦死者が続出する悲惨な戦況だったこともきちんと描写されており、ロボットが活躍するだけのアニメではなく、巻き込まれた戦争を生きぬこうと死にもの狂いで戦い続けるひとりひとりの物語であることを理解できるようになったのは、おそらく大人になってからでしょう。
物語や設定を十分に理解できない子供にとっても面白く、成長するたびに新しい発見がある。そんなものを作ってしまう富野喜幸監督(現:富野由悠季)監督の手腕に、改めて脱帽させられます。本放送から40年以上が経過した令和3年となっても、些細な判断のひとつで運命は無限に変化することを想像させてくれる『ガンダム』の奥深さには、驚嘆するほかありません。果たして10年後に改めて『ガンダム』を見返した時にどのような発見があるのか、密かに楽しみにしています。
(ライター 早川清一朗)
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