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「金ロー」で『時をかける少女』放映 失敗を繰り返す「細田ヒロイン」の原点

マグミクス / 2022年7月1日 20時30分

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■2週連続で「細田守祭り」開催

「行っけっえ~!」

 女子高生・紺野真琴が全力で躍動するシーンが心地よく描かれているのは、細田守監督の劇場アニメ『時をかける少女』(2006年)です。真琴役を演じたのは当時16歳だった新人女優の仲里依紗さんです。声優初挑戦となった仲さんは、とても瑞々しい声の演技を披露してみせました。

 細田監督は東映動画(現・東映アニメ)を退職し、フリーになっての第1作が、このアニメ版『時かけ』でした。公開当初はわずか6館だけでの上映でしたが、口コミで評判が広まり、最終的には全国100館で上映されるロングラン上映作となりました。興収は2.6億円にとどまったものの、アヌシー国際アニメーション映画祭で長編部門特別賞を受賞するなど、細田監督の快進撃は『時かけ』から始まります。

 2022年7月1日(金)の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)では『時をかける少女』、7月8日(金)は細田監督の最新作『竜とそばかす姫』(2021年)が2週連続でオンエアされます。細田作品に共通する主人公やヒロインたちの、「ある特徴」をクローズアップしたいと思います。

■「大林版」からイメージ一新したアニメ版

 SF作家・筒井康隆氏が1965年~66年に学習誌で連載したジュブナイル小説『時をかける少女』は、1971年にNHK総合の「少年ドラマシリーズ」で『タイムトラベラー』という題名でTVドラマ化されました。さらに大林宣彦監督が実写映画『時をかける少女』(1983年)を放ち、芳山和子を演じた原田知世さんが歌う同名主題歌も大ヒットしました。

 その後も、『時かけ』は何度もTVドラマや実写映画化されてきましたが、多くの作品は大林版を踏襲したものになっていました。大林版『時かけ』は青春時代のノスタルジーさが濃厚に漂う作品でしたが、それから20年後の世界を描いた細田版『時かけ』は、がらりとイメージを変えています。

 大林版『時かけ』の主人公だった芳山和子は清楚な雰囲気でしたが、修復画家となった和子の姪にあたる真琴はとても行動的です。思い立ったらじっとできず、走り出してしまうタイプです。ノスタルジーさに囚われることなく、真琴は今をエネルギッシュに生きています。

 そんな真琴は、幼なじみのクラスメイト・功介、転校生の千昭と一緒に、公園のグランド(東京都中野区にある哲学堂公園がモデル)でキャッチボールを楽しむ日々を送っていました。真琴たちは高校2年生なので、来年は受験勉強に没頭することになります。のんびり楽しめる最後の夏休みを間近に控えた真琴たちの日常生活が、ディテールたっぷりに描かれています。

 真琴、功介、千昭のビミョーな三角関係に、胸がキュンとさせられます。

■失敗を繰り返す細田作品の主人公たち

2018年公開の細田守監督作品『未来のミライ』でも、妹が生まれて戸惑う4歳児の主人公が、冒険を通じて成長していく物語が描かれた。画像は『未来のミライ』ポスタービジュアル (C)2018 スタジオ地図

 ふとしたことから、真琴は自分には過去に戻ることができる「タイムリープ能力」が備わっていることに気づきます。時間を自在に操ることができれば、どんなことも可能になります。ところが真琴がやることはちっちゃなことばかりです。食べそびれたプリンを食べ、カラオケボックスでエンドレスに歌い続ける真琴でした。

 もっと有意義なことに能力を使えばいいのに。「金ロー」では3度目の放映となるアニメ版『時かけ』をすでに視聴しているファンは、そう思うでしょう。さらに真琴は、「俺と付き合えば?」という千昭からの交際の申し込みを、過去に戻り、なかったことにしてしまいます。タイムリープの使い方も含め、真琴は過ちを何度も犯してしまいます。

 失敗を重ねる真琴の姿は、その後の細田作品の主人公たちに共通するものとなっています。次作『サマーウォーズ』(2009年)では健二が招いたトラブルが原因となって、仮想世界だけでなく現実世界もパニックに陥ります。大ヒット作『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)では花が学生結婚したことから、過酷な運命が始まります。

 主人公たちの判断は、すぐには正解には結びつきません。失敗し、落ち込みながらも、どうすれば前に進めるかを、細田作品の主人公たちは模索し続けます。

■タイムリープできなくても、未来は変えられる

 失敗を繰り返す主人公像は、細田監督自身の姿ではないでしょうか。細田監督は金沢美術工芸大学を卒業後、子供の頃から憧れていた宮崎駿監督のいる「スタジオジブリ」の研修生採用試験を受けていますが、その結果は不採用でした。

 東映動画でキャリアを磨いた細田監督は、「スタジオジブリ」から『ハウルの動く城』(2004年)の監督オファーを受け、ジブリに出向することになります。しかし、このときの細田監督は、ジブリのベテランスタッフたちに頭を下げることができなかったそうです。その結果、孤立してしまい、途中降板の憂き目に遭っています。

 捲土重来を期して挑んだのが、やはり細田監督が子供の頃から大好きだった筒井康隆作品の初のアニメ化となる『時をかける少女』でした。失敗を何度も何度も繰り返し、ボロボロに傷ついても、それでも前へ進もうとする真琴は、細田監督自身の分身であり、決意表明でもあったように思います。

 物語後半、タイムリープ能力を失ってしまう真琴ですが、走ることをやめません。タイムリープ能力がなくても、未来を変えることはできると分かったからです。

 未来とは今である。

 そのことに気づいた真琴は、その瞬間、少女から大人へと鮮やかに跳躍することになります。

 失敗しても、そこから新しい道を細田作品の主人公たちは切り開いていくことになります。真琴をはじめとする細田作品の主人公やヒロインたちのポジティブさが、多くの人の共感を呼んでいるようです。

(長野辰次)

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