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「加害者は逃げ得」カラオケパブ殺人事件で妹を失った兄 救い求めた『損害賠償命令制度』遺族に全額払われない現実「支払われたのは2割いかず。抜け道いっぱい」制度に翻弄され「故人に思いはせる時間もない」

MBSニュース / 2024年2月28日 13時21分

 「損害賠償が支払われない」。先週、事件の遺族らで作る「犯罪被害補償を求める会」が国に支援の充実を訴えました。そのメンバーの1人、稲田雄介さんは2021年、大阪・天満のカラオケパブで起きた殺人事件で当時25歳だった妹を失いました。稲田さんが語る「損害賠償命令制度」の実態とは。犯罪被害者遺族の厳しい現実を取材しました。

 “自分の店を持つ”という目標を実らせ、大阪・天満でカラオケパブを経営していた稲田真優子さん(当時25)。決して裕福な家庭ではありませんでしたが、小さい頃から真優子さんの笑顔が家族を明るくさせていました。

 2021年6月、事件は真優子さんのカラオケパブ「ごまちゃん」で起きます。真優子さんは床に倒れた状態で死亡しているのが見つかり、遺体の首や胸など刃物で刺された複数の傷がありました。

 遺体発見から4日後、店の常連客だった宮本浩志受刑者(58)が殺害したとして逮捕・起訴され、その後の裁判で懲役20年の刑が確定しています。

遺品が物語る事件の凄惨さ「本当にかわいそうな最期やったんやなと」

 事件で帰らぬ人となった妹が住んでいた部屋。現在、兄の雄介さんが引き取り管理しています。裁判が終わってから数か月後、検察から遺品の一部が返却されました。

 (稲田雄介さん)「亡くなった時に履いていた靴と、これはお店にかかっていた暖簾、あといつも妹がつけていた腕時計です」

 愛用していた時計は、真優子さんの血が付いていて文字盤の数字はほとんど見えず、犯行時の凄惨さを物語っています。

 (稲田雄介さん)「これは(真優子さんに)父親がプレゼントした時計です。あまりべたべた触るとね、乾燥した血が手についてしまうんですよね」

 また、当時店内にあったのれん。

 (稲田雄介さん)「これ『一番血がついてる』って検察も言ってましたけど。そんなにでしたね…」

 (稲田雄介さん)「実際そこにあった物に触れたりとか、こういったものを見ると、どれだけひどい最期やったのかなと。痛かったやろうなつらかったやろうなって、もうヒシヒシと伝わってくるし、本当にかわいそうな最期やったんやろうなと改めて思いますね。突然の最期、突然の別れだったので、思い出はいくらあっても足りないですし、ちょっとでもあればやっぱりうれしい。まじまじと見ると、かわいそうやという気持ちもそうですし、どうしても…(宮本受刑者に対して)憎いなという気持ちが強いですね」

「ぜひとも死刑を下していただきたい」裁判で犯行動機を語らず

 突然起きた悲惨な事件。当時妹を失った悲しみに暮れる一方、1審・2審と続いた裁判期間中の宮本受刑者の言動に苦しめられていました。1審で宮本受刑者はこう述べていました。

 (宮本受刑者)「被害者遺族の意図をくむなら、ぜひとも死刑を下していただきたい」

 一方、公判では真優子さんを殺害した動機を一切語りませんでした。そのため、雄介さんら家族は「真実を知りたい」と宮本受刑者に手紙を出しますが、返事には謝罪の言葉はありませんでした。

 (宮本受刑者からの手紙より)「真優子さんに対しては今も感謝しております。もし今、彼女に贈る言葉としては『ありがとう』以外に思い浮かびません」

宮本受刑者に約3000万円の賠償命令…しかし「支払い2割もいかず」

 心を踏みにじられた雄介さんら家族。さらに弁護士費用や店の後片付けの費用など経済的な負担がのしかかりました。雄介さんは宮本受刑者に対して「損害賠償命令制度」でやり場のない怒りへの償いを求めます。

 損害賠償命令制度とは、刑事裁判の有罪判決後に行われます。その手続きに関与した裁判官のもとで命令が出されます。4回以内に結論を導くので民事裁判を起こすよりも早期に解決することができ、費用もおよそ一律2000円で行える制度です。

 1審での有罪判決後、裁判所は宮本受刑者に対して約3000万円の損害賠償命令を下します。しかし…。

 (稲田雄介さん)「(Q支払われた金額はどれくらい?)2割いってないですね。損害賠償命令とは名前だけで、全く強制力がないものと今回すごく痛感した。年金は差し押さえができないとか、例えば定期預金に関しては満期がくるまで2年先でも3年先でも待たないといけないとか、そういった抜け道がいっぱいあるんです」

 差し押さえができない年金。支払うかはどうかは宮本受刑者の裁量に任されます。救いを求めたはずの制度ですがその実態に納得できませんでした。

「加害者は逃げ得。制度は絵に描いた餅」

 去年10月、事件・事故の遺族らで作られる「犯罪被害補償を求める会」のシンポジウムに雄介さんが登壇します。

 (稲田雄介さん)「実態はやはり加害者は逃げ得だなとすごく感じまして、本当に損害賠償もらってよかったねと誤解される部分もあるかもしれないですけど、実際ふたを開けるとそうではない。(損害賠償命令制度は)絵に描いた餅」

 さらに、被害者の気持ちをこのように語ります。

 (稲田雄介さん)「生活に追われること、(賠償手続きで)時間に追いかけられてしまうことで、故人に思いをはせる時間もなければ悲しむ時間もないわけですよ」

専門家「賠償金を国が立て替える制度が必要」

 犯罪被害者補償に詳しい奥村昌裕弁護士は、被害者の負担を減らすためには賠償金を国が立て替える制度が必要と話します。

 (奥村昌裕弁護士)「現時点では立替制度が一番、実現可能と考えています。別に差し押さえじゃなくても、国が加害者と連絡を取って、分割でもいいから支払いなさいという交渉をする。被害者が自ら弁護士を雇ったり自分で交渉をしている、その負担を(国が)取るだけでも全然違うと思います」

 家族を失った悲しみと経済的負担。遺族らは制度の見直しを求めています。

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