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<ジブリは女性差別?>映画「マネーモンスター」に見る日本のメディアのダメな点

メディアゴン / 2016年6月13日 7時30分

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

* * *

ハリウッド映画「マネーモンスター」を見た。監督ジョディ・フォスター、主演男優ジョージ・クルーニー、主演女優ジュリア・ロバーツ。すごいラインナップである。

物語はこうだ。

財テク情報番組「マネーモンスター」の生放送中に、拳銃を持った男が乱入してくる。男は番組のキャスター(ジョージ・クルーニー)が発した情報によって、ある会社に全財産を投資、6万ドルの損失を被ったと主張する。

番組を取り仕切る女性ディレクター(ジュリア・ロバーツ)は、この大事件発生に放送を続ける決断をし、番組中に問題を解決しようとする。

映画「マネーモンスター」は映画業界、筆者自身の所属するテレビ業界、双方について考えるところの多い映画であった。

まず、女性監督についてである。宣伝のために来日した監督ジョディ・フォスターは、朝日新聞のインタビュー(6月9日朝刊)に次のように答えている。ハリウッドで「女性監督が増えない」ことを嘆き、

 「映画ビジネスを託されるのは男性、または男性の様な思考回路を持つ女性エグゼクティブ」

であることを訴えている。アメリカの女性監督達は一頭抜け出ようとすると「ガラスの天井」に阻まれているというのである。女権の国アメリカでさえもそうなのか、と驚く。

【参考】辛口映画批評サイト「ロッテン・トマト」は日本でも可能か

この件に関連することだが、イギリスのイギリスのガーディアン、インデペンデント両紙に、元スタジオジブリの西村義明プロデューサーの発言が掲載され物議を醸している。以下のような記者とのやりとりだ。

 記者「ジブリは女性監督を起用することはないんですか?」
 西村「映画の種類によりますが、女性はより現実主義的な傾向があって、日常生活を上手に管理する。一方で、男性は理想主義的な傾向があります。ファンタジー映画は理想主義的な思考が求められるので男性監督が選ばれやすいです」

これが「性差別的だ」とされたのである。このような問題が惹起する背景には、映画業界がまだまだ男社会であることに大きな起因があると筆者は思う。日本でも女優さんが監督になった例はある。日本映画史を代表する大女優の一人、田中絹代監督である。田中監督は「恋文」(1953・新東宝)を皮切りに6作の監督を務めている。

ジョディ・フォスターはテレビシリーズ3作、映画4作の監督を務めている。彼女に繰り返し仕事があることには才能と意志の強さを感じる。

来日のテレビ宣伝にあたって、TOKYO MXの『5時に夢中!』を第一選択肢とした。生放送に乱入、ADに扮してカンニングペーパーまで出すと言う大サービスである。既存の地上波キー局は最初にジョディに選ばればなかったことに危機感を持つべきである。

さて、物語であるが、テレビキャスターとディレクターの関係が日本ではほぼあり得ない関わり合いである。台本のセリフ通りに進めたい女性ディレクターのジュリア・ロバーツと、自由に発言しすぎるキャスター、ジョージ・クルーニーの相克が背景に描かれるのだが、日本ならキャスターが完全に優勢である。あれほどはっきりキャスターにものが言えるディレクターは男でも女でも見たことがない。

描かれる財テク情報番組「マネーモンスター」だがこれほど企業名を具体的に挙げる番組は日本では成立しない。「あの会社の株は銀行預金より安全だ」などの発言がでる番組はありえない。少し似ているのは加藤浩次司会の「がっちりマンデー!!」(2004〜・TBS)。ただし、この番組は基本的に企業ヨイショ番組である。

【参考】<視聴率より平均年齢>フジテレビはなぜ「49歳以下が見ている番組」を表彰するのか?

番組に暴漢が乱入したらどうなるか? 過去にこんな例がある。ピンク・レディーの司会で公開収録をしていたプライスクイズ『ザ・チャンス!』(1979〜1986・TBS)のステージに男が乱入した。間髪入れず舞台に上がったプロデューサー・H氏が男に体当たりした。H氏はこの時「俺の番組に何をするんだ」と叫んだというのが伝説になっている。もちろん、収録は止まった。

映画「マネーモンスター」ではディレクターの一声で生放送続行が決まるが、日本ではこの場面は必ず編成局員が出てくるだろう。日本の場合、放送続行か否かの権限は編成局員が持っている。しかし、奥考えるとこれはおかしな話だ。本来、そういった判断は、監督(ディレクター)に全責任があるはずであるからだ。日本では誰もが平等に責任を分け合う無責任体勢ができあがっているから・・・とも言えるかもしれない。

ところで筆者が最もグっときたのは、最悪の結末まで撮り続けたカメラマンのセリフだ。テレビ・リポーターに「怖くなかったですか、最後まで撮り続けたのはなぜですか」と聞かれこう答える。

 「ディレクタターに終わりと言われるまで撮り続けるのがカメラマンの仕事だ」

こういう職人に信頼されるディレクターがもの作りの現場には是非いて欲しいと願う。

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