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情熱の男“豊田 章男”がどうしてもつくりたかったラリーカー「GRヤリス」とはいったいどんなクルマなのか【新型車解説】

MōTA / 2020年9月7日 11時20分

トヨタ GRヤリス RZ “High performance”[4WD・1.6Lターボ] トヨタ GRヤリスの価格は、1.5リッター+2WDの「RS」が265万円、1.6リッターターボ+4WDの「RZ」が396万円、「RZ “High performance”」が456万円となっている。また競技ベースモデル「RC」は330万円だ[価格は全て消費税込]。

トヨタ渾身のスーパー4WDスポーツハッチバック「GRヤリス」が、2020年9月4日、とうとう正式に発売された。ここでは高性能4WDターボのメカニズムは当然のことながら、GRヤリスの成り立ちについて、今一度明らかにしてみよう。

トヨタ GRヤリス RZ “High performance”[4WD・1.6Lターボ] トヨタ GRヤリスは、FIA世界ラリー選手権(WRC)への参戦を目指すホモロゲーション(参戦に必要な規定を満たす型式認定)モデル。開発に当たっては、2017年からWRCへ参戦中のラリーマシン「ヤリスWRC」の経験がフルに生かされた。

GRヤリスは、ヤリスだけど“ヤリスにあらず”!?

まずGRヤリスで何より大切なのは、このモデルがヤリスの名前を共有しながらも、いわゆるノーマル・ヤリスとは、まったく違うクルマであるということだ。

筆者はこれまでに何度か「ヤリスなのに高過ぎる」「だってヤリスでしょ?」という声を耳にしてきたが、それは違う。

GRヤリスはヤリスをベースに作り上げられたモデルではなく、ラリーの現場からフィードバックした技術を元に作られた、まったく新しい一台なのである。

素朴な疑問! 果たしていちからGRヤリスを造る必要はあったのか!?

トミ・マキネン チーム代表率いる「TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team」

そしてGRヤリスは、世界ラリー選手権に出場するためのホモロゲーション(承認)を獲得するためのモデルでもある。

ただ筆者は、このGRヤリス プロトタイプが登場したとき、少し不思議に思った。刺激的なスポーツハッチが登場するのは大歓迎だが、冷静に考えると、果たしてトヨタはいちからGRヤリスを作る必要があったのだろうか? と思ったのだ。

FIA(国際自動車連盟)が定めるWRCのホモロゲーションは、ベースとなるモデルが「連続した12ヶ月間に2500台以上、車種全体で2万5000台以上」の生産台数を満たすことで得られるという。この数字なら現在選手権を闘っているヤリスWRCのように、現行ヤリスで楽らく達成できたはずである。

たとえ3ドアのベース車輌が必要だったとしても、これに現行WRCで重要となる空力性能を付加したエボリューションモデルを生産すれば、競技的には戦闘力も得られる。

そう、今回同時にラインナップされた1.5FF・CVTモデル「GRヤリス RS」のように。

ヤリスには頼らず、GRヤリスだけでホモロゲーション取得を目指している

トヨタ GRヤリス RZ “High performance”

しかしトヨタ(TOYOTA GAZOO Racing)は、ここで妥協をしなかったのだ。

まだベースとなるヤリスでも存在しない3ドアボディを用意し、リアセクションを大幅に作り替え、新たなエンジンを搭載。20年ぶりとなるスポーツ4WDを用意してまで、GRヤリスを生産する決定を下したのである。

もっと言えばGRヤリスだけで、そのホモロゲーションを取得しようとしているのである。

だからこそ、GRヤリスは尊い。

前述したRSは別として、モータースポーツベースの「RC」でさえ330万円。そしてRZ“High Performance”に至っては456万円という価格が、「高価だが破格」「バーゲンプライス」と評されるのは、そのためである。

WRC王者マキネンと豊田 章男社長が運命の出会い!?

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team 豊田 章男 チーム総代表とトミ・マキネン チーム代表

こうした情熱の発端は、2014年に遡る。

このときトヨタ自動車の豊田 章男社長は、4度のWRC王者に輝いたトミ・マキネンと出会い、意気投合。これを機にトヨタはマキネンをチーム代表に迎え入れ、'17年に19年ぶりのWR復帰を果たした。

そしてこれと同時に豊田社長は、世界のラリーで通用する「市販4WDスポーツ」の開発を社内に宣言。しかも次期WRカーのベースになりうる存在として、プロジェクトを決定したのである。

協業ではなく、自社でいちから立ち上げたスポーツカーを

スープラのようなBMWとのイレギュラー協業ではなく、トヨタとしていちから作り上げるスポーツカーが欲しかった。そしてWRCだけでなく、プライベーターが参戦するカテゴリーに、リアル・ラリーカーを提供したいという気持ちもあっただろう。

まさに物作りに対する、ひとりの男の情熱が、GRヤリスを誕生させたということになる。

トヨタ GRヤリス RZ “High performance”[4WD・1.6Lターボ]

ショートストロークの専用1.6リッター 直3ターボ搭載

ということでここからは、その細部を見て行こう。

主役となる4WDモデルのGRヤリスは、前述の通りモータースポーツベース車輌を「RC」、レギュラーモデルを「RZ」、上級モデルを「RZ“High Performance”」とした3グレード構成となる。

搭載されるエンジンは、現行WRカーと同じ排気量を持つ1.6リッター・ターボ。直列3気筒を選んだのはヤリスベースだからというわけではなく、オーバーハング重量の軽さと性能のバランスを取った結果だ。

専用設計となる「G16EーGTS」型ユニットは、ボア×ピッチが85.7×89.7mmと、ヤリスに搭載されるダイナミックフォースエンジンよりもショートストローク。もちろん排気量が違うので直接比較はできないが、この数値もやはり、ラリーでのパフォーマンスを最優先に導き出された。

1シリンダー辺り539ccの排気量で分厚い低中速トルクを確保し、ハイレスポンスなボールベアリング・ターボで高回転まで回しきる特性は、GRヤリスのキャラを表す大事な柱である。ちなみにその最高出力は272PS/6500rpm、最大トルクは370Nm/3000~4000rpmと発表された。

燃料噴射は直噴式に加え、ポート噴射を併用。吸排気双方にVVT(可変バルブ機構)を備えるカムシャフトは、従来の鋳造一体型から圧入・組み立て式に。さらに強化タイプのクランクシャフトやピストンは、組み付け精度の高い量産工場で生産される。これはトヨタでも初の試みであり、GRヤリスがその最初の一台となる。

前後トルク配分が変更可能なスポーツ4WD「GR-FOUR」

こうして得られた高出力を路面に伝えるべく、トヨタは20年ぶりにスポーツ4WD「GR-FOUR」の開発に着手した。その最大のトピックは、前後トルク配分をドライバーの好みに応じて変更できるシステムを持たせたことだ。

ノーマルモードの前後トルク配分は60:40。これを「スポーツモード」に入れると30:70とより多くのトルクが後輪に配分され、「トラックモード」では前後均等の50:50となる。

こうした可変は6MTシフトノブ奥のダイヤルを回すことで操作できる。機構的にはリアデフ直前に搭載された電子制御多板クラッチが、駆動の制御を行う。

シンプルな造りは実戦でも有効

GR-FOURの機構をシンプルな構造としたのは、ラリーでの耐久性や作業性、運動性能に直結する軽さ、そしてコストを重視したからだろう。加えて言えばトランスミッションを流行りのデュアルクラッチや、ロックアップ機構付きスポーツATとせず、コンベンショナルな6速MTとしたのも同じ理由だ。

ちなみに理論的には、電子制御のマッピングを変更することで、その駆動配分をさらに細かく設定することが可能であり、そうしたチューニングも今後の視野に入っているという。

さらにこのGR-FOURを搭載するために、リアサスペンションはダブルウィッシュボーン化されている。

トヨタ GRヤリス RZ[ダート仕様/GRパーツ装着車]

空力に最大限配慮した専用3ドアハッチバックボディ

最後はパッケージングとシャシーだ。

前述した通りGRヤリスは、ノーマル・ヤリスでもまだラインナップされていない3ドアボディを、先だって採用した。

そしてこの英断は、ドア開口部の少ないボディで高い剛性を得るだけでなく、現代のラリーを戦う上で大きな武器となる、空力性能に大きく貢献している。

トミ・マキネン・レーシング(TMR)の風洞実験でルーフ高が決まった

GRヤリスの風洞実験を行ったのは、トミ・マキネン・レーシング(TMR)だ。そしてここから得られたデータを元にTGR(TOYOTA GAZOO Racing)は、そのルーフをリアハッチ後端部分で95mmも低めた。これはWRC出場時に装着される巨大な2段式リアウイングへ、きれいな空気の流れを導くため。このエアフローによって、高いダウンフォースを得るためである。

また車体後半の清流効果を得るために、リア・クォーター部分に空力的な造形を施した。このために3ドアボディは、とても有効だったとTGR開発陣は語っている。

軽量化に配慮したボディパネル

こうして形づけられたボディには、大幅な軽量化も施された。

エンジンフード、ドアパネル、トランクリッドはアルミパネル化され、そのルーフはカーボン製に。とはいえコストが高く手作業が必要となるドライカーボンではなく、フォージドカーボンを採用しているのもトヨタらしい配慮である。

その結果GRヤリスは、3995mmの短い全長に対し1805mmもの全幅を持ち、1280kgのボディを272PS/370Nmのパワー&トルクで走らせるリトル・モンスターとなった。

“本物のラリーカー”なのに、実戦投入がされない!?

ただ残念なことに、こうして渾身のホモロゲーションモデルとして作られたGRヤリスを、トヨタは2021年シーンに投入しないと発表している。その理由は明かされていないが、コロナ禍が生産に影響しているのは確かだろう。

そしてそもそものWRCが、2022年からレギュレーションを大きく変更、緩和してしまうという話が出ている。それはトヨタのような体力を持たないメーカーを救済し、自らもWRCを消滅させないための策だろう。

となると……。まさにGRヤリスは、ここまでやる必要がなかった、幻のホモロゲーションマシンとなってしまうのだろうか?

いや、それも違う。

今後の規則はわからない。ホモロゲーションの台数が緩和されるのか、そもそもの作りが変わってしまうのか(パイプフレームになるという噂もある)。

しかし少なくともGRヤリスを手にしたユーザーは、本物のラリーカーを手にできる。ラリーやダートトライアルといったモータースポーツに参戦するにしろ、クラブレーサーとしてサーキット走行を楽しむにしろ、本物の性能が得られるのである。

GRヤリスは、言ってみれば「俺達のWRカー」なのだ。

そしてこれこそが、トヨタの目指したクルマ造りの根本なのだと思う。

[筆者:山田 弘樹/撮影:小林 岳夫・TOYOTA]

トヨタ GRヤリス RZ “High performance” 主要スペック

全長×全幅×全高:3995mm×1805mm×1455mm/ホイールベース:2560mm/車両重量:1500kg/最小回転半径:5.3m/乗車定員:4名/エンジン型式:G16E-GTS型/エンジン種類:直列3気筒 インタークーラーターボ/総排気量:1618cc/最高出力:272ps(200kW)/6500rpm/最大トルク:37.7kgf-m(370Nm)/3000-4600rpm/使用燃料:無鉛プレミアムガソリン(ハイオク)/トランスミッション:6速マニュアルトランスミッション/サスペンション形式:(前)ストラット式コイルスプリング/(後)ダブルウィッシュボーン式コイルスプリング/駆動方式:スポーツ4WD「GR-FOUR」(4輪駆動)/燃料消費率:13.6km/L[WLTCモード燃費]/メーカー希望小売価格:4,560,000円(消費税込)

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