日本の建設産業、これまでとこれから
マイナビニュース / 2024年9月18日 10時0分
蟹澤: 確かに建設現場の職人は、昔は稼げる仕事の代表でした。稼げる仕事とは何かと言えば、一般論として「付加価値が高い仕事」になります。言い方を変えると、ごく一般の人ではできず「この人でなければできない」仕事です。
自ずと、知識や頭脳、あるいは人並み外れた体力を持つ人が担う仕事になります。建設現場の仕事はまさにそれでした。東京タワーは1958年に竣工しましたが、これを作った職人たちは、当時は安全帯もせず、タワーの頂上付近でリベットを焼き、投げて、受け取り、取りつける。そんな神業を平気で行っていました。
言うまでもなく、誰しもできる仕事ではありません。こうした人たちは当然、多額の収入を得られました。ホワイトカラーと比較しても、現場の職人のほうが稼ぎは上でした。その頃はオフィスにパソコンはおろか、コピーもファクスもない時代、電話は共同、手書きでやりとりしていたので生産性は低い時代でしたからね。
野原: 他の産業や他の職種とも比較して、生産性が高く、能力ある個人が、正当に評価されていたわけですね。
蟹澤: その通りです。特にホワイトカラーや現場監督の数倍も稼ぐような人は、体力が優れているだけでなく建築に関する深い知識や経験、さらにマネジメント能力もあった。
例えば当時、建築や土木で使っていた図面は100分の1や50分の1スケールの手描きで大雑把なものでした。詳細までは記されていないので、現場で図面から完成形を読み取っていました。職人の方々がこれまでの経験から設計意図を読み取って、作業の順番や具体的な施工方法などを考えるなどしていたのです。
さらに現場の職長ともなれば、大勢の職人を率いて、現場マネジメントもしていた。「頭」と「体」と「人」を存分に使って、大きな成果を出す仕事ですから、当然極めて稼げる仕事だったわけです。
野原: しかも、戦後の復興や日本の高度経済成長を支えるとても意義のある仕事、やりがいのある花形産業でもありました。
志手: そうですね。「何もなかったところに新しいものを作っていく」時代でした。黒部ダム、東京タワー、国立代々木競技場など、世の中が驚くような魅力的な建設物をどんどん作っていく。当時の建設業は非常にやりがいを感じやすい仕事で、だからこそ人気の業界だったわけです。しかし、いまや必要なインフラは、おおかたできてしまいました。
誰しも必要不可欠なインフラとしての建設よりも、今あるものを解体したり、古くなったものを補修したりする、華やかさに欠ける仕事の割合がずっと多くなったのです。
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