変革の軌跡~NECが歩んだ125年 第1回 創業者、岩垂邦彦
マイナビニュース / 2024年10月22日 12時0分
岩垂氏は、1886年(明治19年)に工部省を辞め、単身で米国に渡り、トーマス・エジソン氏が創立したニューヨークのエジソン・マシン・ワークスに見習い技術者として勤務した。29歳と若く、勤勉な岩垂氏を、エジソンはとても気に入っていたようで、岩垂氏も最先端の電気技術を学ぶとともに、米国式経営を体感しながら、多忙な日々を過ごしていたという。
約1年を経過したころ、大阪電燈の技師長に招聘する話が持ち上がった。学会や業界の大御所的存在である藤岡市助博士を技師長とする東京電燈がすでに配電を開始するなか、これに対抗すべく大阪財界では、藤岡博士の息のかからない人材を求めており、そこに米国で働いていた岩垂氏に白羽の矢が立ったのだった。これを快諾し、帰国した岩垂氏は、発電機や付属品などの導入を任されたが、このときに選択したのが「交流」方式であった。大阪電燈は、交流方式を推進していたトムソン・ハウストンから発電機などを調達。だが、同社は、岩垂氏が勤務していたエジソン・マシン・ワークスのライバルであり、直流を推進していたエジソン氏とも対抗することになったのだ。
実際、これがきっかけで、岩垂氏の立場は、一気に悪い方向へと進んでしまった。
エジソンとの対立と、「交流」時代のはじまり
エジソン・マシン・ワークスは、「交流は人馬を殺す危険なものである」とし、エジソン・マシン・ワークス出身の岩垂氏を反逆者のように攻め立てたのに加え、日本でも、直流を推進していた藤岡博士が岩垂氏を批判。「大阪電燈の電線は危険であり、これを引き込む家には災禍が訪れる」、「人間のテンプラができる」といったデマが飛び交った。
学会においても、岩垂氏への攻撃は容赦なく、仕事でも、学界でも四面楚歌の状態に陥ってしまったのだ。
だが、このとき、1人の援軍が現れた。日本電燈の技師長であった前田武四郎氏だ。のちにNECの創業に参画する人物である。
前田氏は、交流論を正しいと信じ、堂々と反論を行ない、岩垂説が正しいことを訴え続けた。孤軍奮闘していた岩垂氏にとっては、百万の味方を得た思いだったという。
前田氏が在籍していた日本電燈も、東京市内に中央発電所を設け、交流方式を採用。その後、直流方式に比べて、発電設備が安く、電力輸送のための電線も節約でき、電流ロスが少なくて済むことが実証されはじめると、各地の電灯会社が相次ぎ交流方式を採用。形勢は一気に逆転し、大阪電燈の業績も上がっていった。
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