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タランティーノ最新作『ヘイトフル・エイト』、美術監督・種田陽平に聞く

ニューズウィーク日本版 / 2016年2月26日 18時40分

 彼の場合、撮影の準備をしているときは「脚本家」なんです。「映画のバイブルは脚本だ」と。これは実は当たり前のことだけど、そういう監督はいま意外と少ないかもしれない。

 すでに脚本に細かく書かれてあるから、脚本を読めばすべて分かる。例えば、密室劇の舞台となる「『ミニーの紳士服飾店』にはバーカウンターがある。ボトルは3本しかないが、ここをバーと呼ぶならバーといえよう。シチューが作ってあって、シチューしかないが、ここをレストランと呼ぶならレストランといえよう。雑貨や生活用品があり、何でもそろっているが、ただ1つ、ミニーの紳士服飾店にないものがある。それは紳士服だ」って書いてある。

 紳士服飾店(haberdashery)って、都会にあるテーラーみたいなものだけど、それをど田舎にわざわざ置いて、「紳士服飾店」って看板なのに紳士服を置いていない。そういう店を作ってね、というのがクエンティンの希望で、ひねりが効いている。

――デジタルではなく、最近では珍しい70ミリフィルムで全編を撮影している。そのことを初めて聞いた時はどう思ったか。

 初めて聞いた時というか、台本1ページ目に「70ミリの大画面」って書いてある。「70ミリの大画面に広がるワイオミングの広大な山々。6頭立ての駅馬車が走っているのが小さく見える......」みたいな書き方で始まっていて。しかも一回だけでなく、何度も「またも70ミリの大画面に」って書いてあるんです(笑)。

 クエンティンのこだわりは本当にすごくて、台本の表紙にも、ティーザー・ポスターにも「70ミリのシネマスコープ」とあり、もうあらゆるところに70ミリ、70ミリって書いてある。

 いま日本には、70ミリのフィルムを上映できる映画館がない(今回はデジタル版の上映)。だから、せめてスクリーンの大きい丸の内ピカデリーなんかで観てほしい。そうするとオリジナルの雰囲気、クエンティンが70ミリで狙った世界が分かってもらえると思う。

国内外のさまざまな監督と組み、大きな信頼を得ている種田は「映画愛」にあふれた人 (C)Copyright MMXV Visiona Romantica, Inc. All rights reserved.

『ドクトル・ジバゴ』のように山や川や町といったいろいろなシチュエーションがあるとき、70ミリは最高なんです。本来、密室劇にはあまり向いていない。それなのになぜ『ヘイトフル・エイト』を70ミリで? と不思議に思うかもしれない。

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