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タランティーノ最新作『ヘイトフル・エイト』、美術監督・種田陽平に聞く

ニューズウィーク日本版 / 2016年2月26日 18時40分

――撮影現場にはしょっちゅう足を運んだのか。

 たいてい朝に現場に行き、撮影が始まるのを見届ける。今回はシチュエーションが少ないが、それでもクエンティン組は次から次に解決すべき課題が生じるから。なんといっても監督が完璧主義だし、妥協するタイプじゃない。

 それでいうとクエンティンは、21世紀のコンピュータに管理された映画の世界に、ドン・キホーテのように立ち向かっていると思う。そんなクエンティンの意気に感じ、僕たちも図面はすべて手描きで描いた。今はみんなコンピュータで描くのが普通だけど。すたれていく技術をあえて使うことで映画に人間の息吹を与え、次世代に伝えようということだと思う。

――そのあたりは共感する?

 彼も僕も原体験が一緒で、昔の映画が好きだから話は合う。あうんの呼吸でいく部分もある。僕がセルジオ・レオーネ監督の『ウエスタン』の場面写真を美術の提案に使ったら、「その映画はフィルムで持っているから、うちの試写室で一緒に観ようぜ」と言われて。映画を一緒に観ることも打ち合わせになる。

 彼が経営しているフィルム上映の名画座で『モロッコ』を観た時は、「途中でこういうショットが出てくるから、観ておいてくれ」と言われて、「じゃあ、あの感じでやろう」と話し合った。でもそれで作った棚は最終的に、「邪魔だな」ってはずしてしまった。『モロッコ』を観たことは忘れちゃったみたいに(笑)。

――美術監督の仕事はどの段階が楽しいのか。また大変な点は?

 僕の場合は脚本を読んでスケッチを書き、それを基にセットデザイナーと図面を起こし、模型に組み立てていく、その間がいちばんわくわくするんだ。子供のときのおもちゃ遊びみたいな感覚かな。

 監督も巻き込んで、その模型の中でイスの位置を変えたり、光をいじったりしながらやっていく。それが「映画ごっこ」みたいで、そのときがいちばん楽しい。

 監督やカメラマンが実際にセットに入り、不具合が起こるときが大変だ。了解を得て作ったセットだが、現実には「これがあると撮りづらい。代わりの物を考えて」という話が必ず出てくる。明日からカメラが入って、リハーサルが始まるというようなタイミングであまり時間もない。そこでおもちゃ遊びから、現実に引き戻される(笑)。

 さらに役者がそろったところで、「ちょっとあそこを変えたい」みたいな話も出てくる。ブルース・ダンは背が高いからテーブルの高さも変えようとかね。綿密にやってきたつもりでも微妙な食い違いが出てくる。美術監督にとっては撮影が始まればゴールだけど、そのゴール間近のところが一番きついかもしれない。

 だからこそ、ライティングの終わったセットに役者が入り、撮影が始まると心からほっとする。そしてまた別の遊びに夢中になりたいと思うんだ。



大橋 希(本誌記者)


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