タランティーノ最新作『ヘイトフル・エイト』、美術監督・種田陽平に聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年2月26日 18時40分
ところが仕上がった作品を見て、僕は分かったんです。デジタル撮影と違い、70ミリフィルムでの撮影はピントが合いにくい。例えば顔にピントを合わせると、奥がぼけぼけになる。だから肉眼で見たときとは全然違う空間として撮影できる。
しかもワンカットごとに照明も変えてある。するとあるときはイスが近くに見え、あるときは窓が遠くに見え、あるときは細部がすごくよく分かる......と空間に多様性が生まれ、ワンセットでやっているように見えないんですね。これが普通のデジタルカメラだったら、すぐに「どこを撮っても同じだな」ってなっちゃう。
【参考記事】ウォール街を出しぬいた4人の男たちの実話
1部屋のセットでも、ちょっとしたパーティションや廊下や中2階などの、凹凸があったほうが面白い。でもクエンティンが「死角は作りたくない」と言うので、美術面ではいろいろな手が使えなかった。本当は前菜が出て、スープが出て、お魚の次はお肉......ってやったほうがゴージャスで楽しめるが、今回は一杯のラーメンどんぶりの中にすべての宇宙がある(笑)、みたいなやり方だった。
彼は役者がリハーサルに入る前、スタッフをセットの外に出して、自分1人で演じてみるんです。ドアを開けて入ったり、歩数を数えたり、イスに座ってみたり。登場人物になりきって、あらゆるものをチェックしている。それで「種田を呼んでくれ。このテーブルはもうちょっと高くしたい」とか指示が来る。こだわりのラーメン屋の店主が、チャーシューの位置を直すといった風で、その修正は厳密で迷いがない。
――製作中の失敗や成功など、印象的な逸話はある?
いっぱいありすぎて話し切れないけれど......。例えば美術的なことではないが、ジェニファー・ジェイソン・リーが弾いていたギターを壊しちゃった件。
1800年代の貴重なアンティークだということは本人も、助監督も知っていた。彼女はそれでずっと練習していて、本番では彼女が歌い終わったら「カット」、カットしたら別のギターに変えて壊すという段取りになっていた。でも監督がそれを知らなくて、「カット」の声を掛けなかった。だから(アンティークであることも、段取りも知らなかった)カート・ラッセルが芝居を続けて、ギターを奪って壊した。ジェニファーが「ぎゃー」と叫んだのは、本物のリアクションだった。
「壊しちゃった!!」と彼女が大騒ぎしたから、クエンティンとカートは「何?」「なんで教えないんだよ」ってなったらしく......。みんなで破片をひろい集めて、そこにサインして博物館に寄贈し、「『ヘイトフル・エイト』で壊された本物のギター」として展示されることになったそうです。
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