いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く4 (READY OR NOT,HERE I COME)
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月14日 11時30分
集団の中の一人の黒いTシャツの背に、フージーズがカバーしたヒット曲の元タイトル『READY OR NOT,HERE I COME』が白く印刷されていた。フージーズのメンバーであるワイクリフとプラーズにはハイチの血が流れており、大地震のあとにもさかんなチャリティを行っていたのを思い出した。
けれど、その言葉「READY OR NOT,HERE I COME」は、元来のラブソングとは違う意味で俺の頭の中に響いていた。
なんにせよ私は来る。
それは神のことなのか、地震か。
四駆は彼らの歩行をゆっくり通り過ぎた。
じき曲がって入っていった住宅街の道端に一頭の子ヤギがつながれていて、静かに足元をはんでいた。
俺はもちろんその様子も撮らなかった。
『国境なき仁術団』とロジスティック部門の役割
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コンテナ・ホスピタル
(全体図を説明してくれるジャック医師)
タバルの巨大な「コンテナ・ホスピタル」はOCB(オペレーションセンター・ブリュッセル)が運営していた。建設の時間を省くために、より急を要する施設をコンテナで造り、それをつなげてしまうという見事な発想であった。
裏側のいかめしい鉄扉から中へ入った我々を出迎えてくれたのは、白衣を着た初老のやせて背の高い麻酔医、ベルギー人のジャック・マッソーだった。太陽が頭を圧してくるような陽気の中、そこでもフランス語と英語が入り乱れた。
敷地は広大だった。見渡す限り白いコンテナで、それが整然と並んで結びつけられていた。
地震の2年後2012年に開院し、現在121ベッドもあるナプ・ケンベセンターでは、今でも毎月600件の手術があり、スタッフはなんと500人、うち外国人派遣は20人とのことだった。
ジャックさんはその病院内をすたすた歩き、次から次へと説明してくれたのだが、俺はそれをメモしながら一方で、彼が誰だったか欧米の映画に出てくる名脇役に似ているとも思っていて、気が散って英語を聞き取るのが大変だった。今でも思い出せない。
玄関まで行くと、そこがトリアージの場所で、つまり状態を判断して緊急かそれとも経過観察かなどを決める。すでに少女や青年が奥のコンテナでベッドに横たわっていた。
他に骨折を治療する部屋、生化学検査室、輸血を取り扱う部屋、レントゲン室、理学療法室、食堂などなどがあったが、あまりに設備が整っているので俺はジャックさんに聞いた。
「これ、幾つコンテナがあるんですか?」
すると即答だった。
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