いとうせいこう、ハイチの『国境なき医師団』で非医療スタッフの重要さを知る(7)
ニューズウィーク日本版 / 2016年7月14日 16時45分
「2011年の3月8日に出来たんで、あちこち補修が必要だ。だが、予算がなくてね」
フェリーは大きな体をより大きく動かし、片目をつぶった。
俺たちがソファに座ると、彼はコーヒーを淹れ、様々な話を始めた。
ロジスティックがなければ医療もないのだ、とフェリーは言った。ジェネレーターもあのコーヒーマシンの洗浄も、緊急治療室の電気も、トイレも、検査室や手術室に必要な冷房も、すべてロジスティックとサプライチームが用意して、医療従事者がベストを尽くせるようにする。となれば、その医療と非医療の連携を束ねる責任者も当然必要になるだろうと俺は納得した。
つまりフェリーの話は、なぜ彼ら非医療スタッフがそこにいるのかの重要な説明になっていたのだった。
また、ハイチの出産ピークが10月から1月で、カーニバルの9ヶ月後になっていることも、フェリーは例のハリウッドっぽい笑顔で教えてくれた。ただし、それはジョークでもありながら、ピークに合わせて医療チームも非医療チーム(電気技師も、衛生係も、車輌スタッフも)も人員を増やすという管理の話につながっていた。
コーヒーを飲み終えると、フェリーは外へ出ようと俺たちを誘った。
例えば焼却炉があり、そこでは医療廃棄物が適正に処理できる温度での焼却が行われていた。あるいは、昔馬小屋だった部屋を使っているために、蹄鉄をかける場所がそのまま衣料かけになっていたりした。最先端と旧式がないまぜになって使われているのだ。
歩く間に陽光の中でフェリーはこんなことも言った。
「今、我々は周囲の病院の能力をつぶさに調べている。我々は土地の医師たちに任せて去れるようにしなければならないからだ。だからこそ、ここクリュオのカバー率も徐々に減らすように心がけているんだよ」
まぶしそうな顔で彼は続けた。
「これから三年はかかるだろう。この施設もそれに備えて変えていかねばならない。いつまでも駐留しているのでは目的が違う」
そして、最後にこう付け加えた。
「難しいことだが、長い道も一歩からだ」
フェリーはつまり、千里の道も一歩からを引用していた。ことわざをサービスしてくれたのだ。口の端がにやりと上がっていたから間違いなかろう。
それから俺たちは 産科救急センターの病院内に足を踏み入れた。
廊下でカールに会った。ダーンも緑衣姿で通りかかった。その時に疫学のエキスパートだとわかったオルモデもいた。
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